架空の詩集

拝啓、いつも呼吸を貸し足りない子供へ。



接着剤に勝てる重力

置き去りひとつで濁る目の見た

街並みを送る宛のない、零れた飴の色遣い



鼓動のある日の範囲に思えた

命の焼き直しに飽きても、車両に角度は追いつけない



出来上がった硝子にも息を吹いて、

過去に埋まるたび体温を上げる

毛布もなければ、乾いた雨にも当たれないその城



リズムの中に暗闇が住んだ

双眼鏡の知識があれば

最も近いうろ覚えから、薄い便箋は揺り戻されて



木の引き出しが切り上げた景色は、

煙に巻かれても諦めのまま。

また見るようでそんなことはない陽光と帰途



今日は淵に届かない透明なら

原色のわからない印なら

縁を得るまでインクを溢す

紫水晶の、その白い破片のまま



耳を塞いで眠る道

包装を剥がして消える、薄明かりの

捨てられる場所へも帰るのだろう

その夜の翅と、その深夜の紙片



知らないと口走った不特定の質量

答責のない場所へ流れ着く鋳鉄へ



もしかしたら、

今日が判らない人の中

晴れ雲と半円の無作為のひとつ

そんな揺らぎで等しく並ぶ、緑の風や硝子や仮定



双眼鏡を継ぎ接ぎに治す日の

砂絵の中で跳ねた太陽と、

返事を待てない架空の詩集



統一の好きな眠りから、散って逃げた画材たち

もう水蒸気では測れない街の、

一度は笑った種類の帰途へ。

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陽光と帰途 かつてトマト @ukane27

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