紫水晶の白い破片

拝啓、思えば何も失っていないはずの朝へ。




羽化をするように

汚れから汚れへ溶けていく



旅人を辞めた硝子片は

明日からも旅人を名乗るのだろう



悲しい終わりになりきれない一粒の

苦しい今日の終わりになら

シルエットの無い穴を包む一時間も

意識の中だけの一時間も



賞賛を吸って膨らむ何かに

シャッターを押せば写る風景に

瓶の中の水への不安に

交われないから、撹拌される自己紹介



表面張力の夜に

三本の脚で歩き、ヒレの無い腕で泳ぐ

上書きされる誰かに宛てて



瓶の蓋代わりの憧憬が、

君の歩幅を緑にしても

乾いた看板に、透明は残らないまま



泡になる打楽器

閑静な傷痕

煩いのは銀色だけ

塗り潰せない銀色だけ



渦巻の外側に期待を持たないように

閉じる指に切られたように

真新しい冬の朝が、

積まれた木に登るまで



敵と味方と物語と、

それを生み出す症候群を

知らない賽が迎えにくるまで

岸辺の花が迎えにくるまで



記憶の中の私の中で、

この景色はどこまでも続く



ボールの中の死んだ空気と

騒ぐ部屋のカーテンの裏の

今際の際を知らない誰かの

見る星は今日も 今日が終わるときも

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