孫一と機関車

けんちゃん

第1話

孫一は、益田に帰る為に浜田駅の1番線から普通列車に乗り込んだ。行商の帰りだった。孫一は、孤独だった。父母をある不幸で亡くし、妻も子供も、一切縁がなかった。辛い労働で、疲れきった身体を癒せるのが唯一この列車の中だったのだ。ガタガタ揺れる汽車が、孫一のこれまでの苦労を、物語っていた。だから哀しみを滲ませるキヨスクでかった、一個158円のワンカップを呑むのが好きだった。ほろ苦い苦労の染み付いた味がして、ひと口飲んだ時、涙が、込み上げた涙がドウと頬をつたって流れ落ちた。「今日もやっと終わったか」「そういえば、子供の頃、おとうさんとおかあさんが折居村の大麻山の奥にあるよれよれになった、あばら家に居ないので、よくいじめられたなー」「それに日本が戦争に負けた時、朝鮮人にゲンコツされたっけ。」

母親の榮が、浜田の精神科に入院していた事でそもそもは、村八分にされていたのであった。

汽車は懐かしい折居駅の近くまできていた。

時刻は午後8時をまわっていた。

真っ暗なカーテンを引かれたようになり、海と夜空が同一化していて、窓が仕切りとなって、波の音をかき消した。

ポツンとついた電灯の元に、列車は、緩やかに、静まり返った駅に到着した。そして、車内音声が流れた。「折居、折居ー」駅の改札にはひとけが無く、無人駅だと云う事が直ぐに分かった。孫一は、誰か下りて来ないか海辺に面した座席から見ていた。誰も降りようとしない、、、、、、

あ!ひとり降りた。その正体は男子学生だった。孫一はすかさずポケットに入れていた、老眼鏡を目深にかけた。あ!やっぱり、ケン坊じゃ。何処かで見たことのある風貌じゃとおもったわい。

「ケン坊ー、おーいケン坊ー、ワシじゃ、じいちゃんじゃ。孫一じゃぞー賢二ー」

その声は虚しく、誰もいない車内の中で響いただけだった。

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孫一と機関車 けんちゃん @Fukuharakenji

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