第9話

YO!YO!YO!YO!

俺が埼玉県入間代表

俺がイルマニア


イルマニア

埼玉入間

代表さ

アーイ↑




「もう飽きたのだわ」

土曜の夜、一人「月曜から夜更かし」の2時間スペシャルを見ていた大澤めぐみは、誰もいない部屋で一人呟いた。


そう、もう飽きた。何度この世界を作り直し、赤ら顔に壊されてきただろうか。


実際のところ、使命に目覚めた空間の支配者としてのめぐみに飽きという感情はない。そうでなければ、この果てしない試練を超えて赤ら顔の危機に備えるなど到底不可能だろう。


しかし、大澤めぐみとしてのめぐみは幾度となく繰り返し見てきたイルマニアに飽き飽きしていた。もう何度この番組でイルマニアと桐谷さんを見てきただろうか。ゴールデンの放送だというのに素人二人で2時間持たせようとするなんてどうかしている。さすがになんの新鮮味もない。


めぐみはテレビをつけっぱなしにして、スウェット姿のまま玄関に置かれたサンダルを履いてコンビニに向かった。


コンビニに行ったところで特にすることはない。いや、めぐみとしてのめぐみはジャンプを立ち読みしている今この瞬間も仲間達と交信を続けている。


正確にいえば、めぐみが行っているのは交信ではない。既にめぐみの同胞は一部を除きめぐみの世界、すなわちめぐみと一体となっている。誰かと交信しているようでいて、実際には自分の内部で情報を循環させ続けている。言ってみれば独り言だ。大澤めぐみがテレビを見ながら何か呟くのと何も変わらない。


かつて同胞たちが作り出した空間も今はめぐみが所有している。全てが一つとなったかつてないほど広大な空間はめぐみの支配が隅々まで行き渡り、今までにないほどの安定を見せている。



前にジャンプを立ち読みしたのは火曜日、会社の帰りだっただろうか。



火曜日に導き出された宇宙の成長速度とメインストリームの流速から換算して、めぐみの時間でいう来週の月曜日が決戦日となる事が判明した。おそらくこれが最後の戦いとなる。


めぐみの空間とメインストリーム。現在、二つの大きさはほぼ互角である。しかしながら、決戦を挑むにあたりどうしても解決しなければいけない課題がある。


めぐみは買う必要のない飲料水を手に取ってレジに並ぶ間も、交信ならぬ独り言を続けている。


メインストリームを完全に消し去るには、メインストリームそのものをめぐみの空間のある一点に凝縮しなければならない。いかにすみずみまでめぐみの支配が行き届いているとはいえ、赤ら顔の奔流が内部で拡散すればなすすべもなく飲み込まれてしまうだろう。


赤ら顔を一点に留めるにはメインストリームそのものを一瞬で呼び寄せる強烈な因果、そして因果を引き受ける盤石の依り代が必要である。



カギを開け、玄関のドアを開く。



めぐみがさっき買ったのと同じ飲料水を歌舞伎役者が飲んでいる。そんな様子がテレビに映っていた。めぐみはテレビをつけっぱなしだったことを思い出した。どうやらドラマが終わり、次の番組に向けてCMをやっているようだ。


部屋には特に変わった様子はない。出かける前と同じワンルームである。


一方で、今この瞬間にもめぐみ達の宇宙は成長し、メインストリームはこちらに向かって流れている。


やるしかない。


めぐみは飲料水を飲みながら自問自答した。


エスプレッソが喉を通る間にも決戦の時は近づいてきている。



「あれを使うしかないのだわ」


めぐみがCM明けのテレビ番組を見てそんなことをつぶやいた。そのあまりの強力さゆえ、めぐみが世界の奥深くに封印した禁忌の力。かつて赤ら顔を招き入れ幾度となく世界を危機に陥れた忌むべき存在だが、赤ら顔を完全に消し去るにはこの力に頼るしかない。



歌舞伎に魅了された最後の同胞達、流浪の民を呼び起こし、因果を結ぶ。



かつて使命を忘れた同胞が己のささやかな楽しみのため、禁忌の民を呼び覚まし世界を破滅へと導いた。こんどは自ら赤ら顔をこの世界に降ろすため、そして赤ら顔をこの世から消し去るため、今再び封印を解く。





無念 Name ●●●● ○○/○○/○○(905:55:55 No.1145141919893 [消]del

なんだこれ!?思わずタンブらずにはいられない!!

これがあれかい?美術大の学生さんが作ったって言う女神天使きめコナちゃんかい?














―――周りを、良くみるのだわ。




青識は周囲を見渡す。オフィスに誰もいない。いや、青識のデスクも椅子も、観葉植物もドアも窓もカーペットも何もない。


青識は自分がだだっ広い、白い空間にいることに気づいた。


「え?ちょっとなんなのここ…?何で誰もいないの…?いや、やだ!ごめんなさい!ごめんなさい!帰して!家に帰して!」


―――あなたの家はここよ。それに会社の人たちだけじゃない、みんなここにいる。今この世界はこの空間に凝縮されているの。だからあなたの居場所はここしかないの。


「嘘…そんな、嘘だわ…。うっ…。

そう、嘘よ。こんなの嘘だわ。これは夢よ、これは夢…。」


青識はめぐみにとびかかり、バットを奪い取る。


「あなたを殺せば夢から覚める。あなたを殺してここから抜け出す。そうどうせこれは夢よ。あなたを殺したって何の問題もない。さあめぐみ。わたしをここから出しなさい。」


青識はバットでめぐみを滅多打ちにする。めぐみは抵抗する様子もなく打たれるがままだ。



鈍い衝撃音に水音が混じり始め、めぐみの反応も次第に鈍くなる。



「はあ…はあ…。」




めぐみのスカートを脱がしストッキングを破り、ショーツをずらし始める。


バットは巨大なバンテリンとなっていた。


「さあ、これで仕上げよ。これで私の夢は覚める。すべては元通り。わたしはいつもの生活に戻るの。」








「けおおおおおおお!!!!!!1145141919893」







ぴるすは爆発四散し、ぴるすの中から赤ら顔の歌舞伎役者が現れた。



―――来たわね。



白い空間が瞬く間に洋館の大広間へと変わっていく。大澤めぐみが子どものころ、一度だけ両親に連れて行ってもらった場所だ。幼いめぐみはいつかこんな屋敷に住みたい、こんな大広間でダンスパーティをしてみたいと夢見た。


青識自身もまた、この場所にふさわしいフランス人形のような赤いドレスを身に纏っていた。


―――赤ら顔よ。わたしの全て、いや、わたしとわたしの同胞の全てが今この空間とわたしに収斂されているわ。わたしがあなたに飲み込まれるか、わたしがあなたを取り込むか。決着がつくまでわたしはあなたを逃さない。



ぴるすから生まれた歌舞伎役者はゆっくりと立ち上がり、本物川と対峙する。



―――さあ。アリスゲームの始まりなのだわ。

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