第3話助かった。。。

あの日のことは、あんまり、思い出したくない。そう、呟くのは当時15歳だった少年。今は母親と祖母と血のつながりがない6歳の弟と、岩手県宮古に仮設住宅暮らしだ。父親はあの震災で、亡くなった。


あの時、家族みんなで逃げた。後ろからは津波どんどん押し寄せてくる。そこには、逃げ惑う人が、混乱していた。その時、ギャーギャー泣く赤ちゃんの鳴き声が聞こえた。消防士だった父は街の人たちの援護で、いっぱいいっぱいだった。

「赤ん坊がいるのか?」

「親父!!早くしないと津波が。。。」

「ちょっと探してくるから、お前たち先に行け!!」

そう言って民家の中に入って行った。僕は心配になり、父を追いかけた。

すると、そこには、逃げ遅れたのか、まだ、1歳になるばかりの赤ん坊を抱いた若い婦人が倒れた棚の下敷きになっていた。婦人は、もう息をしていない。赤ん坊はただただギャーギャー泣くばかり。ようやく、その婦人の腕から赤ん坊を取り外し、抱きかかえた父はすぐさま家を出ようとした。その瞬間、屋根が落ち、父は下敷きに、なって身動きが、取れなくなった。その間にも津波は、止まることなく勢いを増して迫ってきた。

「親父!大丈夫か?早く。。。」僕は父の上に覆いかぶ去った屋根を退かそうとするが、びくともしない。

「竜二、この子を頼む!!俺に構わず早く行け!!早くっ!」

「やだよ。そんなことできるわけないだろ。」

「お前まで死んでどうする!母ちゃん達を頼むぞ!俺は大丈夫だから、早く行け!」

そう言われるままに、僕は赤ん坊を抱きかかえながら一目散に逃げた。もう、目の前まで、津波が押し寄せてきた。足がもつれ、転びそうになったとこに父の同僚の消防士が、早く!これに乗れ!!消防車から、手を出し、僕はその車の中に、飛び乗った。

後ろを見るとあの家にはもう、津波が来ていた。

「親父!!親父!親父ー!!!!」僕は叫んだ。顔をぐちゃぐちゃにし、泣いた。目の前で父が津波に飲まれて行くのが見えた。

それから、先に避難所に逃げた母たちと合流した。

「竜二、お父さんは?どした?」

「この子助けて自分が、崩れてきた屋根に挟まれて津波に。。。」

「うわぁァァん。父ちゃん。。。」

母が、崩れ落ち泣いた。祖母も泣いた。酷く悲しく僕らは抱き合いいつまでも泣いた。

その時父が命掛けで、守った赤ん坊が、この弟だ。父の名前を取り、養子として我が家の家族となった。

この子や、僕は助かったけど、父が津波の犠牲になった。一家の大黒柱を失い、しばらくは途方に暮れた。今では言葉もしゃべるようになり元気に育つ弟。この子の本当の、両親の話はしていない。いつか、分かる時が来たら、僕の口から話すつもりだ。亡くなった父の跡を追うように僕は今消防士になるために、勉強しています。

そう言って彼は唇を噛み締め、父を想った。


なんとも悲しい話だろうか。目の前で父が津波の犠牲に。。。悔やんでも悔みきれぬ想いがそこにあった。頑張って生きて欲しい。心から、そう願うしかない私はやるせなかった。



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