打ち合わせ

「えぇっと……それじゃあ、作る料理を決めようか」

「は、はい」


緊張して、ちゃんと喋れてるか分からない。


「お、小野宮さんは、何を作りたい?」

「ふぇ!? え、えっと……」


彼女はどうしようかと悩み込んだ。

普段は内気で、恥ずかしがり屋の彼女は、真剣に悩んだことに驚いた。

眼差しは真剣そのものであり、凛とした顔付きに変わる。


「ぁ……」


言葉が出なかった。

そんな彼女の姿に見惚れてしまうのも、しょうがないと思う。


「や、八雲くんは、好きな食べ物とかある?」

「え? …………あ、ああ。あるよ」


小野宮さんに声を掛けられ、思考が停止しかけたが、直ぐに返答する。


「何が好きなの?」

「結構好きだからなぁ……ハンバーグ・オムライス・野菜炒め・麺類とか」

「……なるほど。なら、カロリー控えめでお腹に溜まる料理──豆腐ハンバーグでいい?」

「え、なにそれ」


初めて聞いた料理名に、緊張感とか何も思わずに返す。


「ハンバーグの中に豆腐があって……」


それから、小野宮さんと料理のことで話が弾んだ。

他の料理で何がいいとか、料理するときにはこんなことをコツにするといいとか。

日頃意識していた、『相手に対する質問』ということが役に立ったときと感じた時だった。

そんな中、どこからか声が聞こえた。


「……なんだ、結構大丈夫じゃん」



あれから、小野宮さんと楽しく会話をしていたら、授業が終わり帰りのHRホームルームで、決めた料理の材料を各自で用意するように、と言われた。

レシートさえ持って来れば、使った金額は返してくれるとも教えてくれた。


「さてと、材料か……」


今思い出すと、作る料理を決めてから違うことで話していた気がする。


「小野宮さん」

「どうしたの?」

「豆腐ハンバーグ作るのは分かったけど、材料とかどうする?」

「必要なものは私が分かってるし……明日と明後日の二日間を使って、私が集めておくね」

「いやいやいやいや」


なんでそんな役を自分から引き受けようとするんだろうか。

罪悪感で俺が押しつぶされそうだ。


「俺にも教えてよ。俺も買うから」

「え? で、でも……」


申し訳無さそうな声を出す小野宮さん。

なぜこんな声を出すのかは分からず、素直に聞く。


「どうかした?」

「や、八雲くんは……交友関係とか広いし、こんなことで貴重な時間をつぶすしたら、色々と大変なんじゃないかな、って……」


語尾が近付くに連れ、声音が弱くなっていった。


「いやまあ、確かに交友関係は広いけど、そんな休日まで遊ぶ相手は結構決まってるよ。それに、学校行事なんだし、そっちを優先しないとだし、ね?」

「……うん。それなら、頼んでいい?」

「分かった」


小野宮さんはメモ帳を取り出し、そこに記入していく。

書き終えたのか、もう一枚メモ帳に書いていく。


「八雲くんは、この材料をお願い」


渡されたメモ帳には、字は丸く綺麗きれいで、お手本になるほどの上手さだ。

内容を読むと、幾つかの材料が書いてあった。


「あれ、結構少ないんだね」

「うん。少なくても済むから」


そこで俺は、多少乱暴だと思いながらも、小野宮さんが自分用に書いたメモ帳を奪い取る。


「~~っ!?」

「……やっぱり」


彼女のノートには、俺よりも多く書いてあった。

笑顔で嘘を吐くとは、なかなか隅に置けない子である。


「ぅぅ……」

「ねえ、小野宮さん」


そこで俺は、一つの提案を出した。

正直、この考えは俺の人生の中で、かなりの勇気を費すほどのものだ。


「どうせなら、一緒に買いに行こうよ」

「ふぇ……?」


一瞬、困ったような顔した。

図々しかったか、俺なんかと行きくないのか。

嫌だからこそ、自分ひとりでやろうとしたのかもしない。

女なら誰でもいい節操なしだとか、異性の相手を簡単に誘う女たらしだとか。

そんな表情をした彼女を見て、思考がネガティブに変わっていく。


「あ、ううん。何でもない。一人で買いに行くよ」

「……ぁ。ま、待って!」


引き下がろうとした時、小野宮さんは今までに聞いたことのない大声を出した。

大声と言っても、クラスの女子どもが出す程の大きさではない。


「……い」

「え?」

「行きたい……一緒に、行きたいっ」

「え? あ……う、うん」


チャンスだと、今の俺は心からそう思った。


「ならさ、連絡先とか教えてくれないかな?」

「少し待ってね。携帯出すから」


俺たちは授業中だということを忘れて、お互いの連絡先を交換した。

心の中ではガッツポーズである。

今日の夜、ちゃんと寝れるかどうか心配になる。


「それじゃ、この時間もあと少しだし、決められるところまで決めようか」

「うんっ!」


彼女は、心から嬉しそうな顔を見せてくれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

少年少女の恋物語〜好きな人出来たから本気出す〜 @0023_30

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ