第6話
郁彦から連絡を受けた母が、十分ほどで到着した。その間の私はといえば・・・雨に濡れた地べたに座り込んだ郁彦の腕に抱きかかえられたまま、通学や通勤にこの道を使う大勢の人達の好奇の目に晒されていた。顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。それと同時に、ずっと胸に仕舞い込んでいた郁彦への想いが弾けそうになる・・・ドキ、ドキ、ドキ、ドキ・・・心臓の鼓動が激しくなると同時に足の痛みも脈打ち始め、痛みと恋心が同化した。見るな、郁彦、こっち見るな・・・俯いたまま必死に想いを隠し続けた。
「詩織、顔赤いぞ。」
「えっ?」
「捻挫のせいで熱出てきたか?」
「そ、そんなこと、あるわけないじゃん・・・」
「ごめんな、なんもしてやれなくて。」
「別に、あんたのせいじゃないし。元はと言えば、猫のしっぽ踏んづけた私が悪いんだし。それより、冷たいでしょ、そんなとこ座ってて。それに、重いだろうし・・・」
「平気、平気。気にすんな。」
どうしてこいつは、こんなに優しいんだろう。昔から、いつだってそうだ。その優しさを、何度恋心と勘違いしそうになったか。お向かいってだけで仲良くしてる私なんか放っておけばいいのに。
「気にするなったって、っ・・・」
「痛むか?」
「まぁ、そこそこ・・・」
「お前って意地っ張りっつうか、素直じゃないっつうか・・・」
「可愛げがないって言いたいんでしょう?」
「ホント、可愛げないよなぁ。」
「悪かったわね!」
「俺にだけ。」
「・・・へっ?」
「お前が可愛くないのは俺の前だけ。だろ?」
「あの、、郁彦・・・?」
「お前は可愛いよ、ずっと。昔から、変わらない。」
「な、何言ってるのよ、こんな時に。痛っ・・・私庇って頭でも打った?」
「こんな時だから言うんだよ。じゃなきゃお前、俺の話まともに聞きゃしないだろ?」
「そ、それは・・・」
「お前の弱み付け込むみたいでホントはヤなんだけどさ・・・」
「く、郁彦・・・」
「お前が下向いてる間に言うから。ちゃんと聞けよ。」
「な、何・・・」
えっ、何、これ。これってもしかして・・・きゃーっ、やめてぇーっ!
「詩織、俺は・・・」
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