第4話「森の中」

 街を出てから小隊はルートごとに分かれ、セシルの第五小隊は川沿いの道を進んだ。


 アウルベアたちは森の奥の洞窟を住処にしているらしい。討伐隊はその洞窟を叩くつもりのようだった。


 洞窟はかなり森の奥まったところにあるらしく、重たい色の木々の下を一日中歩いていても、目的地にはたどり着けなかった。


 夕方になる少し前、隊長の号令で第五小隊はテントの準備に取りかかる。

 テントを組み立て終わると、空は夕闇の色に染まっていた。


 いくつかの焚き木を焚いて、その周りで配給の食事をとる。

 配給のパンと干し肉は、いつも食べるものに困っているセシルにはおいしくいただけた。

 ただ、兵士用の食事は量が多い。すべてを食べ切ることはできず、残りは取っておこうと包みを閉じかけたところで、


「……なぁ、それ、食わないなら俺にくれないか?」


 隣の男に話しかけられた。


 男は移動中も何度かセシルに話しかけていた。背は高くないが、体中に筋肉がついた岩みたいな身体をしている男で、小汚い様相のせいかかなり歳をとっているように見える男だった。


 男が道中勝手に語り出した話によると、彼は数週間前に商人の傭兵としてこの地にやって来たようだった。

 しかし、その商人の一行がアウルベアに襲われ、命からがら一人でルンベックまで逃げてきたのだとか。


「やつらを甘く見ないほうがいいぜ」


 と、セシルの残飯を食いながら男が言った。


「俺を雇ってた商人は、この小隊の半分くらいの傭兵を連れてたんだ。だけど俺以外は全滅。それに俺は見たんだ」


 食べながら話すから、口の中のものが飛びまくっていた。特に注意はしなかったが、セシルはわずかに眉を顰める。


「俺たちの隊をつぶしたやつらは十体かそこらだった。でも逃げるときに、後ろから倍以上のアウルベアが追いかけてきたんだ。……あんなのに捕まったらひとたまりもないぜ」


「……でも、僕らの討伐隊はこの小隊だけじゃない。あと四つあるだろ」


「だから、いくら力自慢の傭兵を募ったって、小隊一つでやつらとやりあうのは危険だって話だ。全部の隊で一気にかかるのが確実だぜ、一番被害を少なくするにはよ。……もっとも、領主にとっちゃ兵士は洞窟で減ってくれた方が助かるんだろうけどな。用意する報酬が少なくて済むから」


 セシルは腰を上げてテントに戻った。

 就寝にはまだ少し早い時間だが、厳しい道のりのせいで身体はかなり疲れていた。


(……今日はもう寝よう)


 セシルと先ほどの岩のようは男、それとあと二人が泊まる予定のテントの中には、まだ誰もいなかった。


 配られた薄い毛布を広げて、それにくるまるように寝転がる。

 決して寝心地はよくなかったが、疲労のたまっていた身体はすぐにまどろみの淵に落ちていった。

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