第18話
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放課後、いつも通り西條たちに捕まらないよう駅まで走り、トイレの個室に駆け込んだ。
そしていつも通り服に袖を通そうとしたが、今日はそれに躊躇いが生じた。
正確には黒羽さんに会うことに、躊躇いを感じていた。
この間垣間見た彼の執着に、僕はすっかり怖じ気づいていた。
確かに今までも僕への強い好意は言動の端々から感じられていたが、そこに不気味さはなく、恋愛感情は抜きにしてその好意が単純に嬉しくさえあった。
けれどあの日、メモ帳を受け取った彼の、僕の言葉、いや文字のひとつだって逃さないとするようなあの瞳を見て、僕が感じ取っていた好意は表層のものにすぎず、もっと暗く根深いものがその奥に根を張っているのだと悟った。
その瞬間、彼との関係をすぐさま断ち切って逃げ出したい衝動に駆られた。
だが、彼の執着におののくと同時に、その執着を拒んだ時の彼がどんな行動に出るか分からない恐さもあり、僕は前とは違った意味ではあるが、結局別れを切り出せずにいる。
行きたくない。行きたくない。行きたくない。
呪詛のように心の中で呟きながら、のろのろとワンピースに着替え、黒タイツに脚を通した。
ひとつ溜め息を吐いて、ドアをそっと押し開けた。
しかし、僕が出るより早く、突然男の手がドアに滑り込んできて僕を便器の方へ突き飛ばした。
いきなりのことに何の構えもできていなかった僕は、便座に腰を打ちつけて、そのまま床に尻をついた。
ガチャン、と鍵がかかる冷たい音が響いた。
痛みに顔をしかめながら、顔を上げるとそこには、
「……西條、くん」
いつもの酷薄な笑みを浮かべ、西條が立っていた。
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