第13話
結局、どれか一枚には絞れず、試着した服は全部買うことになった。
僕の知らない間に会計はすまされており、どのくらいのお金がかかったかは定かではないが、安くはないはずだ。
『今度会う時にお金払うので、いくらか教えてください』
そう言っても、彼は頑なに首を振った。
「いい、気にするな。俺が買いたくて買ったんだし」
『でも悪いです。せめて半分だけでも出させてください』
けれど、彼は首を縦に振らない。
僕も彼の厚意に甘えられず、膠着状態が続いていた。
すると、妙案が浮かんだらしい黒羽さんが「それじゃあ」と言って僕の耳元に口を寄せて囁いてきた。
「今日買った服、俺以外の奴と会うときには着ないでくれないか。俺と会うときだけ、着てくれ。それでお金のことは気にしない。いいな?」
鼓膜に吹きかけられるような熱く湿った吐息に、僕は思わず頷いてしまった。
僕の返答に黒羽さんは満足げに微笑んで、熱を持った僕の耳の縁を指先でそっとなぞった。
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