第2話 柃の月7日2

弁当のサンドイッチを食べ終えて鼻歌交じりに街へと戻る途中の事

道から少し離れたあたりから金属を打ち鳴らすような音が聞こえてきた。

何かの催しでもやっているのか等とのんきなことを考えながら道の脇に沿って作られている低い石垣の上に乗って音のする場所をのぞき込んだのだが、予想は完全に外れていた。

戦っていたのだ。

人と獣が

さらに詳しく言えば剣や楯を持った軽装の鎧で身を固めた人間とオークと呼ばれる2メートル半ほどの人間の者と比べると出来のかなり悪そうな巨大な青銅製の大剣を持った獣が戦っていた。

人間の数は5人でオークの方は2体、数でいえば人間の方が有利であるのだが戦況は逆だった。

ここは関わらずに帰ろうかとも思ったのだが、人間側の者たちの顔に見覚えがあることに気付く、確か俺の住んで居る街で活動している冒険者だ。

冒険者とは俺が元居た世界でのファンタジー小説に出てくるような存在そのものだ。

魔物と呼ばれる獣を討伐し街から報酬を貰って生活している。

つまりここで見逃してあいつらが死んだら街を害獣から守る存在が少なくなる。

あいつらのほかにも街に冒険者は居るがそれでも数が減るのは問題だろう。

それに魔物相手に銃がどのくらい通用する物なのか知るチャンスでもある。


早速ライフルを構える。

距離は100m弱と言ったところだろう、アイアンサイトでも十分に狙える距離、問題はオークに通用する威力かどうかだ。

この銃のマガジンはチューブ式なので必然的に使用する弾薬はラウンドノーズのものになる、先の尖った尖頭弾頭ではマガジン内の弾薬の雷管を後ろの弾薬の先が叩くことによって暴発する恐れがあるからだ。

弾頭が丸いということはその分ストッピングパワーには優れるが命中精度や貫通力と言う点ではあまり期待できない、オークの頭蓋が如何程の固さなのかは見当もつかないがあの大きさから考えて貫通できない可能性の方が高いだろう。

そして運よく貫通したとしてあのいかにも生命力豊かですと言い張っているあの生物は頭を軽く飛ばしたくらいで本当に死ぬのかも怪しい、ファンタジー小説では頭に剣や槍が刺さっても生き残るモンスターなんて腐るほどいるのだ、この世界でそうじゃないとは言い切れない。

まぁそれを確かめるために撃とうとしているのだからこれ以上考えることもあるまい、そうして思考を放棄したのは決してめんどくさかったからではない、多分。


アイアンサイトを覗いてオークの頭を狙う、冒険者たちとは身長差がけっこうあるから頭を狙うなら多少動き回っていても誤射をすることはないだろう。

それにオークの頭は身体と同じようにかなりでかい、あのサイズの頭蓋に脳が詰まってるならもっと知的でもいいはずなのだが見るからに馬鹿そう…じゃなくてそんなことはどうでもいい、要はターゲットが大きければそれだけ当てやすいということだ。

我ながら緊張感のない思考に呆れつつもオークの頭に狙いを付けてトリガーを引く。

ターンと発砲音が辺りに響いたのとほぼ同時に狙いを付けていたオークが衝撃を受けた様によろめく、それなりにダメージはあったように見えたのだが予想通り頭蓋骨は貫通しなかったのだろう。

だが出来の悪そうなオークの兜は半分ほど砕けて空いた穴からは結構な量の出血が遠くからでも見て取れた。

完全に効かないという訳でもない、頭部でも兜のない場所ではどうだろうか?1発では仕留めることはできなくても2、3発体に当てればどうだ?頭ではなく心臓では?

確かめたいことは山ほど頭に浮かぶが今はそれよりもオークを仕留めなければ、今の射撃でこちらの位置は気付かれただろう、オークがこちらに向かってくるとなれば冒険者たちが頼りになるかは正直微妙なところだ。

冷静に熟練の兵士のように……とまではいかないがそこそこ慣れた手つきでボルトを操作して次弾を装填する。

排出された薬莢が地面にカキンと音を立てて落ちる。

頭を押さえながら体勢を立て直したオークが周囲を探るように辺りを見回す。

こちらは草の陰になっているので見えていないはずなのだがオークがこちらを見た瞬間目があった気がして背中にぞくりとした寒気を感じた。

オークがこちらをじっと睨む、その視線の元に向けて2度目の射撃。

外せば確実にこちらの位置が割れる危険な射撃、だがアイアンサイトの照星の向うには顔面から血を吹き出しながら崩れるオークの姿、やはり兜がなければ頭蓋骨を貫通できるようだ。

だが結果に安堵している場合じゃない、もう一体のオークもこちらに気付いていて目の前の冒険者たちよりもこちらの方が危険だと判断したのか冒険者に背中を向けて勢いよくこちらに走り出す。

これは少々まずいかもしれない、銃で一番狙いにくい動きと言うのは逃げる相手ではなく間違いなくこちらに向かってくる相手だ。

なぜなら相手が近づくほど修正の動作も大きくなるからだ、それに相手に迫られるという心理的なプレッシャーもある。


だが幸いなことにオークは馬鹿丸出しでまっすぐ突っ込んできていた。

横の動きがない分幾分かましだ。

内心焦りつつもボルトを操作し次弾を装填、距離は50m程まで縮まっている。

しっかりと狙ってトリガーを引く、僅かに逸れたようで兜の一部を吹き飛ばしただけに終わる。

だがその瞬間オークの足は止まった。

直ぐに次弾を装填、迷わず頭を狙う、この状況で心臓や体に当ててなんて確かめている暇はない。

次は確実に当てる。

自身にそう言い聞かせてトリガーを引いた。

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アルターの異世界日記 んご @FAL_GA

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