第36話

 「速いよ峰二」

 「だね~」


 二人の学生服は汗で濡れていた。足元から周囲には一面、紅花の景色が広がっていた。緑の険しい山の中にここだけ黄色の空間が確保されていた。私はその花の上に寝転がり、静かに呼吸を整える。はーふぅ。汗が重力に捉えられ背中に溜まって流れるのを感じる。綾乃は目線の先で走ったことなど無かったかのように飄々としている。夕日に照らされる彼女の髪は神々しく、橙色に透過した極薄の夏服はどことなく色気が漂う。綾乃が近づいてくる。


 「ねぇ!花山鈴。踊ろうよ」

 「え?」

 「ほら立って、一緒に踊ろう」

 「私、踊れない……」

 「えーなんで?」

 「踊りなんて知らないもの」

 「私もだよ、花山鈴。良いの適当で、楽しいから踊るんだよ。わからないから踊るんだよ。こんなにも綺麗な場所で、私達二人っきりだよ?踊らにゃ損だよ損!」

 

 綾乃の手を取り、とりあえず花畑を歩いてみる。呼吸は落ち着き、少しだけ喉が乾く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

炭酸ガール うさぎ @ssuqqe

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ