第14話 確かなことは

朝起きると窓が白く曇っていた

覚醒したばかりの脳を叩き起こす

少しばかりの水

ヘヤピン2本

昨晩からつけっぱなしのヘアゴム

あとは、読みかけの文庫本


これらがあれば私の朝は満たされる


布団をたたむ前にお水をクピリ…

前髪を左右に抑えて 視界は良好

枕をかたわらに

頭を起こせば後ろ髪が割れだす

手首のヘアゴムを頭につけて

毛布を三段に折々おりおり

塊になった布団の上で文庫本を眺める

読む、というわけではない

ベージをめくらず

ただ 眺める


寝入る寸前まで物語を読んでしまうと

現実とフィクションの境目が曖昧となる

読みかけの文庫本が

夢日記ならぬ夢の予定帳になるのだ


これが上手く行き過ぎると

境目が本当に消えてしまう

これはいかん…


現実ではやってはいけない

机の上で逆立ちしてはいけないし

運動靴は食べちゃいけない…

湯船にマシュマロを浮かべちゃいけないし

両耳を切り取って庭に埋めてはダメなんだ…


夢のなかだとなんでもできる

現実との境がわからなくなる‥

こんな時に本の表紙を眺めると見分けがつく

読みかけの本をじっと見つめて、見つめて

襲いかかってこなければ現実。

噛み付いてくるようならそこは夢のなか。


ぼーっと眺めていると母の声が聞こえてきた

私を呼ぶ声だ…

はっとなった私は本をその場に置いて

水のコップを持って、リビングまで足を引きずる

二度寝でもしたら大変だ…

夢のなかの夢なんてわかりづらいったらありゃしない

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