第30話 新たなる伝説


 「叩きのめせ!! アイスロックゴーレム!!」


 コオオオオオオ!!!!


 『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』の命に従い氷の巨人アイスロックゴーレムの巨大な拳が炎の龍サラマンドラの顔面を殴り付ける。


 グォワアアアアア!!!!


 堪らずのけ反る炎の龍サラマンドラ

 人型の氷の巨人アイスロックゴーレムに比べ炎の龍サラマンドラの腕は細く短い。

 そのせいで肉弾戦には全く不向きと言える。

 氷の巨人アイスロックゴーレムは次々とパンチのラッシュをかけ炎の龍サラマンドラを圧倒していく。


「…アイツ…こんな隠し玉があったなんて…おおっ?」


 地面に横たわり足の痛みに耐えながら戦況を見守る『大地の戦乙女グラン・バルキリー』が不意に持ち上げられた事に動揺する。

 彼女を持ち上げたのは『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』のマスコットのペンタスだった。


「ここは危ない…あとはオイラのマスターに任せて離れましょう!!」


 ペンタスは『大地の戦乙女グラン・バルキリー』をお姫様抱っこして猛ダッシュ。


「済まない…!!」


 タカハシもそれに続く。

 ペンタスは他のマスコットより大きめなお蔭でこういう事が出来るのが強みである。


「あっ…戦ちゃん!!」


「エターナルさん…丁度良かった!! 助けてください!!」


 偶然にも『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』にばったり遭遇する。


「うわっ!! どうしたのその足の火傷…!? 待ってて今『ヒール』を掛けるから…!!」


 癒しの水が『大地の戦乙女グラン・バルキリー』の足の火傷を治していく。


「…ありがとう、助かった…立てるようになっただけでも十分だ…」


 まだよたよたしているが、立ち上がって巨人と龍の戦況を見つめる。


「あれは一体どうなってるの?」


「我々が『地獄の吐息インフェルノ・ウィスパー』に攻撃を加えたら奴は炎の龍に変身してしまったのだ…そしてもう一方の巨人は『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』が魔法で召喚した物だ…それが今戦っている…」


 心配そうな眼差しを戦場に向ける『大地の戦乙女グラン・バルキリー』。


 ピロロロロロロロロ!!!!


 不意にカードリーダーのコール音が鳴った、しかも二人同時に…。


「ごめんなさい、緊急の重要情報だから一方通行のスピーカーモードで失礼しますわ!! 『地獄の吐息インフェルノ・ウィスパー』の弱点は頭の仮面です!! 何とかそれを叩き壊してください!!」


 『億万女帝ビリオネア・エンプレス』からの緊急コールだ。


「えっ…どうしたらいいの…? 龍に変身した状態で仮面の破壊なんて…」


「いや…諦めるのは早いぞ!! 今のは『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』にも聞こえていたはずだ…こちらもスピーカーモードで指示を出そう!!」


 『大地の戦乙女グラン・バルキリー』はカードリーダーを取り出すと…


「おい聞こえているか『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』!! 取り込み中の所悪いが何とかその龍の中に居る『地獄の吐息インフェルノ・ウィスパー』の位置を特定してくれないか!? そうしてくれれば後はこちらが狙撃する…」


 そう言って通話を切った。


「そんな無茶な…!! 仮に『地獄の吐息インフェルノ・ウィスパー』の居場所が分かったとして、あんなに動き回る奴を狙撃なんて出来るのかい!?」


 ユッキーが興奮して疑問をぶつける。

 どう考えても無謀な作戦だからだ。


「…普通の砲弾だったら無理だろうな…」


 あっさりと無理だと認めてしまう『大地の戦乙女グラン・バルキリー』。


「だったら『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』と言う高性能な砲弾だったらどうだ?」


「えっ…私?」


 ちょっと何を言っているのか分からない『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』。


「そうか…!!アンタの企み…何となく分かったぜ!!」


「そうか…?」


 ユッキーと『大地の戦乙女グラン・バルキリー』は少し悪い笑みを浮かべてお互いを見つめた。




「まったく…勝手なこと言ってくれちゃって!!」


 氷の巨人アイスロックゴーレムの頭上に乗ったまま愚痴る『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』。

 今はまさに炎の龍サラマンドラとの激闘の真っ最中だ。

 いくらこちらが押しているとは言え氷の巨人アイスロックゴーレムもかなりのダメージを負っているのだ。

 溜めが無い状態の小規模のものだがファイアーブレスを受けてしまって体表が解け水が垂れていたり、鞭の様に振り回された尻尾の打撃で身体のあちこちにひびが無数に入っているのだ。


「はぁ…はぁ…はぁ…」


 彼女の息もあがって来ている…実はこの『アイスロックゴーレム』の魔法は術者から膨大な魔力と体力を容赦なく奪う。


「早く決めないと…!!」


 焦ったせいか大振りのパンチを空振ってしまった。

 炎の龍サラマンドラはその隙を見逃さずスルッと長い胴を滑り込ませ氷の巨人アイスロックゴーレムの身体にグルグルと巻き付いて来たではないか!!


「ああっ…しまった!!」


 ギリギリギリ…。


 コッ…コワアアアア…


 氷の巨人アイスロックゴーレムが発する音声がまるで悲鳴の様だ。

 下の方から徐々に登って来る炎の龍サラマンドラは螺旋状に巻き付いたまま締め付けを強めると氷の巨人アイスロックゴーレムの身体からは次々と砕けた氷片が崩れ落ちていく。


 グォワアアアアア!!!


 炎の龍サラマンドラの頭部が遂に『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』のいる頭頂部にまで到達する。


「………くっ!!」


 対峙する『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』と炎の龍サラマンドラ

 今まさに炎の龍サラマンドラが『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』かぶり付こうとした所で氷の巨人アイスロックゴーレムの左手の平が炎の龍サラマンドラの頭部をがっしりと掴んだのだ。

 口を開けられない様に上下の顎を丸ごと握りしめている。


「…こちらはもう限界だわ…せめて最後に一撃を…!!」


 コオオオオオオ…!!


氷の巨人アイスロックゴーレムの拳に渾身の力が籠る…


 メキメキメキ…。


 炎の龍サラマンドラの口先から折れた牙の破片が無数に降って来る。

 眉間の鱗も同調して剥がれ落ちるとそこには『地獄の吐息インフェルノ・ウィスパー』の頭部があったのだ!!


「あっ…あんな所にいた…!!」


 巨大な筒の先端から顔を出した『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』は指をさして叫ぶ。


「よし!! でかした『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』!!

では『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』…準備はいいか!?」


「うん!!」


 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』の入っている巨大な筒とは『大地の戦乙女グラン・バルキリー』が魔法で呼び出した巨大砲『アーティリティキャノン』の砲身だった。


 『大地の戦乙女グラン・バルキリー』の狙いは『地獄の吐息インフェルノ・ウィスパー』の居場所の特定後、『アーティリティキャノン』によって撃ち出された『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』が目標に高速接近し仮面を破壊するという物だった。

 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』が砲弾代わりなら軌道修正が可能と考えたからだ。


「標準セット!! 後は貴様に任せたぞ!! 行ってこーーーーーーい!!」


 耳をつんざく爆音と共に『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』は音速に近いスピードで撃ち出された。

 一気に『地獄の吐息インフェルノ・ウィスパー』の眼前まで迫る…。


「これで終わりよ!!いっけえええええ!!!!『アルティメットカッターーーーーー!!』」


 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』が顔の前で腕をクロスした後振り下ろす!!

 『アルティメットカッター』は彼女の使う『カマイタチ』の魔法の最上位版で切れ味もスピードも段違いなのだ。


「………!!」


 たじろぐ『地獄の吐息インフェルノ・ウィスパー』であったが腕や体は炎の龍サラマンドラの額に埋まっているので防ぐ手段が無い上に炎の龍サラマンドラの頭部自体が氷の巨人アイスロックゴーレムの掌がガッチリ固定しているので回避は不可能!!


 ギャリイイイイン!!!


 研ぎ澄ませれた風の刃が『地獄の吐息インフェルノ・ウィスパー』の仮面を粉々に打ち砕いた!!

 仮面に隠れていた少女の顔が露出する。

 どうやら意識を失ってしまった様だ、ガクリと頭が下がる。

 それを切っ掛けに炎の龍サラマンドラの身体は灰になってサラサラと消滅していき、ほぼ同時に氷の巨人アイスロックゴーレムの身体もガラガラと崩れ落ちていく…。


「…これで…あの子も許してくれるかな?…」


 氷の破片と共に真っ逆さまに落下していく『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』。

 全ての力を使い果たしもう指先一本動かす余力も無い…。


「…ブリブリさん!!」


 両手を広げ『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』が高速で飛来する…そして『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』を無事抱き留めると空中に制止した。


「…ありがとう…ブリブリさん…あなたがいてくれなかったら私達負けてたかも…」


 涙を流しながら感謝を伝える。


「それはいいけど…そのブリブリさんって呼び方…なんとかならない? …ガクッ」


 『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』はそう言い残して気を失った。


「ちょっと!!ブリブリさん…!!ブリブリさん…!!大丈夫!?ブリブリさ~~~~~ん!!」


 …彼女のお願いは聞き入れてもらえなかった様だ。


 そうこうしているともう一人空から落下してくる人物がいた。

 先程まで敵であった『地獄の吐息インフェルノ・ウィスパー』だった少女だ。


「あっ…!! いっけない…!!」


 慌ててそちらの子も受け止めに行ったが既に両腕には先客が居る。


「え~と!! 『エターナルエアライン』!!」


 苦し紛れに魔法を唱えると少女が空中に停止した。

 咄嗟とは言えファインプレーである。


「ふぅ…さてと、地面に降りようね…」


 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』は二人を連れて地上へと降りて行った。




「おお~~!! ワシはまた伝説の誕生に立ち会えた…長生きはするもんじゃの~~!!」


 激闘を見守っていたカメキチは涙を流して感激していた。

 救援隊はつい今しがた現場に着いた所なのだ。


「流石ですわね皆さん…本当に頑張りましたわ…わたくしの出る幕はありませんでしたわね…」


 そう言いながらも『億万女帝ビリオネア・エンプレス』は嬉しそうにみんなを見つめている。


「さあ皆さんを迎えに行きましょうか…」


 毛布や医療品を持って人々は我先にと救国の魔法少女たちの所へ走っていく。

 普段は静寂に包まれている森に歓声がいつまでも響き渡っていた。

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