第26話 緊急増刊号 実戦向け魔法を使ってみよう(上級編)


 「皆さん良くお集まりくださいました…申し遅れましたが私が『魔法少女協会マギカソサエティ』の副会長、ピースケと申します」


 ここは闘技場から少し離れた場所にある魔法少女協会本部の会議室。

 その議長席で先程のセキセイインコのマスコットが挨拶をした。

 何とあの巨大インコは副会長だったのだ。


「ここでは『魔法少女狩りマギカ・ハンター』の対策の協議と情報交換をしたいと思います、よろしいですね?」


 一同は頷く。


 この会議の出席者は


 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』。

 『億万女帝ビリオネア・エンプレス』。

 『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』。

 『大地の戦乙女グラン・バルキリー』。


 そして各々のパートナーマスコット達。


「ちょいと待ってくれ…アタイも参加させてくれないか」


 緊急搬送用のキャスター付きのベッドで運ばれてきたのは『森の守護者フォレスト・ガーディアン』こと守野ミドリだ。

 今は変身を解いている。丸い黒ぶち眼鏡にエンジのジャージ姿…ミドリの普段着はお洒落とは無縁の物だった。


「ミドリ!! 安静にしてなきゃダメじゃないか!!」


 珍しく強気のネギマル。


「話を聞くだけだって…なあ頼むよ」


 拝むような仕草のミドリ。


「…全く…仕方がありませんね…」


「おほん…では『魔法少女狩りマギカ・ハンター』との遭遇回数の多いエターナルさん、知り得る限りの情報提供をお願いします」


 ピースケに促され『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』が発言する。


「私が初めて彼女に会ったのは守銭奴ラゴンを退治した直後でした…

何も言わずにいきなり襲って来たんです…

そのせいで私の友達は…」


 視線を落とす『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』。

 察したように『大地の戦乙女グラン・バルキリー』が続ける。


「奴は強力な炎属性の魔法をいくつも使って来た…

 恐らく闘技場を襲った巨大隕石も奴の仕業とみて間違いない

 しかし何故あやつだけがあんな桁外れの魔法を単身で使用出来るのだ…」


 静まり返る室内。

 続けて『億万女帝ビリオネア・エンプレス』が発言する。


「皆さん…わたくしは先の戦闘で『魔法少女狩りマギカ・ハンター』に探知魔法を掛けましたの…わたくしもまだ見ていませんのでここで公開してもよろしくて?」


「…是非お願いします、出来れば正面のスクリーンに投影願いますか?」


「はい…『ブックオブシークレット』!!」


 分厚い本が現れページがめくれていく。


 そして『魔法少女狩りマギカ・ハンター』の肖像が載っているページで止まった。

 その場にいた全員がスクリーンを凝視する。



 【unknown】 魔法少女? 炎属性?


 仮面に顔を隠し、漆黒に赤のマント、巨大な鎌型マジックデバイスを持つ。

 最近になり突如現れた、魔法少女を襲撃しイェンの強奪を繰り返す悪行魔法少女。

 通り名は『魔法少女狩りマギカ・ハンター

 当初はイェン強奪が目的と思われていたが、ごく最近の行動を見るに魔法少女自体の襲撃が目的なのではと推測されている。

 強力な炎属性の魔法を操り、人々で賑わう闘技場を襲撃した事もある要注意人物。

 使用魔法の詳細は只今調査中。



「…これだけじゃ…知ってる情報と…さほど変わらない…」


 ぼそっと辛辣な感想を述べる『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』、『億万女帝ビリオネア・エンプレス』も苦笑いだ。


「あっ!ちょっと待って…今文章が増えたよ」


 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』指差し指摘する。

確かに何やら書き加えられている。


 追記…彼女の容姿が50年前にファンタージョンの支配と破壊を目論んだ魔法少女、『地獄の吐息インフェルノ・ウィスパー』に酷似している事が判明。

 ただそれに関しての文献が少なくこれ以上の調査は難しい。



「『地獄の吐息インフェルノ・ウィスパー』…」


 一同は息を呑む…


 ファンタージョンにおいて『地獄の吐息インフェルノ・ウィスパー』は『平和の創造者ピースメーカー』と並んで語り継がれる伝説上の存在だ。

 但し『平和の創造者ピースメーカー』が正義と称されるのに対して『地獄の吐息インフェルノ・ウィスパー』は悪である。

 文献や創作物でも『平和の創造者ピースメーカー』の姿は天使の様にハッキリと描かれる反面、『地獄の吐息インフェルノ・ウィスパー』は黒の様に描かれている事が多く本当の姿を知る者は少ない。


「質問!!50年前の魔法少女が今も活動しているなんて事はあるんですか?」


 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』が実に的を得た質問を投げかけた。


「そうですね~有り得ないとは言い切れません…魔法少女は生涯初回登録時の姿のまま活動する事になります、

 だからその人物が存命で変身さえできれば可能かとは思いますが、

 年齢を重ねたり処女喪失すると魔法力が減退してしまうので当時の実力のままと言う訳には行かないと思います」


 ピースケが実に分かりやすく解説する。


「では、今の『地獄の吐息インフェルノ・ウィスパー』は偽物だと?」


 『大地の戦乙女グラン・バルキリー』の疑問はもっともだ。

 本人説の可能性が低いともなれば別人を疑うしかない。


 そこで『億万女帝ビリオネア・エンプレス』がある案を提案する。


「ではこうしたらどうです?ここ最近で行方不明や活動内容に不審な所のある魔法少女をリストアップするのです…

 魔法少女の属性は重複しないと聞いてます、そこに炎や火等の属性の人物が居れば『地獄の吐息インフェルノ・ウィスパー』をかたっている何者かが分かるかも知れません」


「なるほど…!!魔法少女の全体数と活動内容は協会のデータベースが把握しています、時間は掛かりますがさっそくやってみましょう!!」


 こうして魔法少女協会マギカソサエティが調査すると言う事で話は進んで行った。

 ひと段落したところでユッキーはある疑問を解消するために動いた。


「あの…副会長、『地獄の吐息インフェルノ・ウィスパー』の事とはちょっと外れるのですが…質問いいでしょうか…」


「はい…何でしょう?」


「実は私の友人のマスコット、ピグが…パートナーの魔法少女が行方不明なんです…探索の魔法で生きているのは確認されていて、それなのに彼は消滅してしまった…そんな事が有り得るのでしょうか?」


「何ですって?!それは不可解な…分かりました、先程の件と並行して調べてみましょう!!」


「ありがとうございます!!」


 これでツバサたちのチヒロ捜索の助けになる事だろう…意気揚々と会議室を出て行こうとすると…。


「あっ…そうそう皆さん!! この作戦は協会からの正式要請です、

『週刊 魔法少女』の緊急増刊号を無料配布しますから必ず受け取ってくださいね!!」


「「「はい!!」」」


「…無料配布…太っ腹…」


 両手を結び瞳を輝かせる『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』。


「あはは…」


 少し前なら自分も無料の本に大喜びしていただろうなと思った『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』であった。




「緊急増刊号か~」


 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』は受け取った『週刊 魔法少女』を見る。

 増刊号らしくナンバリングが無い。


 ここは魔法少女協会マギカソサエティの中庭、ちょっとした庭園になっており中心には噴水がある。

 それを囲う様にベンチが配置されていて彼女はユッキーと共にそこで本を開いていた。



 【実戦向け魔法を使ってみよう(上級編)】


 「本書は『地獄の吐息インフェルノ・ウィスパー』(仮)の討伐を目的とした刊行物です。

 本来ならば中級魔法を先に習得後、段階を置いて上級魔法を修得という流れだったのですが今は緊急事態…より強力な魔法をここに解禁します。」



 ・スパイラルアローLv1…風属性 攻撃魔法 強化版エアリーアロー、

 本来はレベルが上がるとこの魔法にバージョンアップする予定だった。

 ・アルティメットカッターLv1…風属性 攻撃魔法 超高圧縮された空気の刃が対象物を切り裂く。

 ・カミカゼLv1…風属性 攻撃魔法 自身の身体に竜巻を纏い対象物に特攻する。

 ・エアブロックLv1…風属性 特殊魔法 空中に硬質の空気のブロックを配置できる。防御、妨害工作などの使用を推奨。

 ・エターナルエアライン…風属性 特殊飛行魔法 他の魔法少女を飛行させる事が出来る。


「…何だか凄そうな魔法がきたね…」


「あの『地獄の吐息インフェルノ・ウィスパー』を倒すにはこれくらい必要でありんす…ただ惜しむらくは経験をつむ時間が無い事でありんすな」


 ヤレヤレと首を横に振るユッキー。



「少しいいか…?」


「うわぁ!!ビックリした…」


 後ろからいきなり声を掛けられて飛び上がるほど驚いた二人。

 声の主は『大地の戦乙女グラン・バルキリー』だった。

 地面には首根っこを彼女に掴まれて引きずられて来たらしき『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』もいた。


「ひいい…勘弁してくださいぃ~」


「お前は数少ない無傷の魔法少女なのだから協力しろ!!」


「あの…何か用?」


 意外な組み合わせの二人に『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』は首を傾げた。


「…ああ、そうだった…『地獄の吐息インフェルノ・ウィスパー』の討伐作戦に当たって吾輩から提案があるんだが…聞いてもらえるか?」


「いいよ、じゃあ二人共こっち来て座りなよ」


「ありがたい…」


「ひいいい…」


 『大地の戦乙女グラン・バルキリー』はベンチに腰を下ろし、

吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』も無理やり隣に座らせられた。


「『地獄の吐息インフェルノ・ウィスパー』討伐はまず探索から入るだろうから長丁場になるのは覚悟しなければならない

 そこでだ…我々三人で先行して偵察に出ると言うのはどうだろう?」


 合理的な『大地の戦乙女グラン・バルキリー』らしい発想だ。


「でもせんちゃんは魔力がカラなんでしょう?大丈夫なの?」


「…戦ちゃん?…まあいいか…その点は一晩待ってくれれば回復する…大丈夫だ…だから偵察は明日決行したいと思う」


「うん…いいけど…みんなに止められないかな…」


「………」


 正にその通りだ、ただでさえ活動できる魔法少女が希少な今、彼女たちの別行動を許可してくれるとは到底思えなかった。



「わたくし抜きで何の相談かしら…?」


「わあああっ!!!」


 飛び上がる三人とユッキー。


「あ~びっくりした…!!」


「な~んてね…全部聞かせてもらいましたわ…」


 どうやら『億万女帝ビリオネア・エンプレス』に全て聞かれてしまったらしい…。

 これは確実に偵察に行く計画を止められる…三人はそう思った。

 特に『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』は内心行きたくないのでそれを切望していた。


「はい…これを」


「これは…!!」


 『億万女帝ビリオネア・エンプレス』は三人にカードを手渡した。

 それはゴールドカード…贈答用のプリカでかなりのイェンが入っている物だ。


「どうせ止めても行くんでしょう…? わたくしはこの怪我ですから同行は出来ませんが…わたくしから協会の皆さんには上手く行っておきますわ」


「金ちゃん…ありがとう!!」


「恩に着る…『億万女帝ビリオネア・エンプレス』」


「え~?」


 一人不満の声を上げる『吹雪の訪れブリザード・ブリンガー』であったが、周りのあまりの盛り上がりっぷりに何も言い出せなくなってしまった。


 明日、三人は「『地獄の吐息インフェルノ・ウィスパー』探索の前段任務…偵察に出掛ける事となった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る