第21話 緊急任務 カイコ虫を退治せよ!


 「…ううん…ここは…天国?」


 おもむろに目を覚ましての『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』の第一声…。

 眼前には数多の美しい草花や樹木が生い茂ってはいるがここは天国では無い…彼女はまだ死んではいないのだから。

 次第に意識がハッキリするにつれ妙なものが視界に入って来た。

 何と横になっている『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』を囲う様に何かの植物の蔦が格子状に組まれていたのだ。


「何これ…」


 その格子を触ってみたが、物凄く強靭でちょっとやそっとでは引きちぎる事が出来なかった。

 辺りを見回すと彼女の近くにはゲートがあり、丁度そこからユッキー、『森の守護者フォレスト・ガーディアン』、見慣れない球根の様な姿のマスコットが出て来た。


「おっ!! お嬢ちゃんが目を覚ましてるな」


「ツバサ…!! 良かった…気が付いたんだな!!」


 心配そうに駆け寄るユッキー。


「ユッキー!! どこ行ってたの!? これはどうなってるの!?」


「ああ済まないね~アタイらの留守中にお嬢ちゃんがカキン虫に襲われない様に『レストリクション』の魔法をかけてたんだ…今出してやるよ」


森の守護者フォレスト・ガーディアン』が指を鳴らすとスルスルと蔦が解け地面に引っ込んでいった。


「…あの…あなたは…?」


「おう!!自己紹介がまだだったな…アタイは『森の守護者フォレスト・ガーディアン』ってもんだ、宜しくな!!『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』!!」


「よっ…宜しく…」


 相変わらず激しいシェイクハンド、『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』は目が回りそうになった。


「ツバサ…こちらの姉さんはツバサを襲ったカキン虫を倒してくれた上に回復魔法で命まで助けてくれた恩人でありんすよ!!」


「えっ!! そうなんですか!? ありがとうございます!!」


 ペコリとお辞儀をする『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』。


「いいって事よ!魔法少女は助け合わね~とな!!」


森の守護者フォレスト・ガーディアン』は手を振って答える。


「さて、早速で悪いんだがじゅうカキン虫『カイコ虫』退治の相談をしたいんだが…いいか?」


「? …何の事?」


 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』の頭にクエスチョンマークが灯る。


「ああ…ツバサが気絶している間に『森の守護者フォレスト・ガーディアン』の姉御と協力関係を結んでもらったでありんす

チヒロ探索に協力してもらう代わりにあちらの討伐任務を手伝う約束になってるでありんすよ」


「えっ? そんな…!!それじゃお姫ちゃんを探すのは後回しって事?!

 どうして勝手に決めちゃうかな!!」


「それは…」


「まあまあ…アタイには『ルートインスペクト』って言う植物の根っこを使った探索魔法があるんだ…かなり広範囲を調べられるから役に立つと思うぜ?

だからお嬢ちゃんもちょっとだけアタイらを手伝ってくれないかな…頼むよ…お嬢ちゃんの活躍次第ではすぐ終わるからさ」


「あ…はい…分かりました」


 ポンと『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』の肩を叩いた『森の守護者フォレスト・ガーディアン』はユッキーに目配せしてくる。

 感情が爆発しかけた『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』を上手くなだめたのを見てユッキーは彼女に頼もしさを感じた。


「よし!! そんじゃあ始めるか!! ネギマル!! お嬢ちゃんにも分かる様に初めから説明してやってくれ…なるべく短くな」


「相変わらず難しい事をサラッと言いますね…まあいいですけど…」


 ネギマルと呼ばれたマスコットは眼鏡をスチャっと指で押し上げながら皆の前に出て来る。

 彼の容姿は一言で言って玉ねぎだ、玉ねぎに手足が生えていて眼鏡を掛けているのだ。ただ頭のてっぺんは細長く伸び、先端は葉が広がっている。


「我々はこれから『カイコ虫』と言う巨大な蚕蛾かいこが型のカキン虫を退治に行きます…以上!!」


「それじゃ短すぎだろ…!!」


 『森の守護者フォレスト・ガーディアン』は横からネギマルを蹴っ飛ばした。


「痛い…なるべく短くって言いましたよね!?」


 頭を押さえて涙ぐむネギマル。


「口答えしてるんじゃないよ!!…あっ…」


 そのやり取りを『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』とユッキーが引き気味にこちらを見ている。


「おほん…このカイコ虫って奴はこの辺の植物を食い荒らすんで地域住民がエライ迷惑してるんだ…ただ奴はデカイ羽根で飛び回るもんだからアタイの植物属性の魔法とは相性が悪くてね…だから空を飛べるお嬢ちゃん達に手伝ってもらおうと思ったんだ」


「なるほど…そうだったんですね」


「お嬢ちゃんにお願いしたいのはカイコ虫を地面にたたき落とす事だ…

そうなりゃ後はアタイの自慢の鋳薔薇の鞭でバッサリだ」


 ウインクしながらビシィと親指を立てる『森の守護者フォレスト・ガーディアン


「はい!所でミドリさん、カイコ虫は何処に出るか分かっているんですか?」


「あれ? お嬢ちゃん何でアタイの本名を知ってるんだ?」


「あっ…思い付きですけど…ごめんなさい迷惑でしたか?」


 ツバサの自分で勝手に人のニックネームを付ける癖が出てしまった。


「あはは…そうかい!面白いなお嬢ちゃん!いいよそう呼んでも、じゃあアタイはお嬢ちゃんの事ツバサって呼ぶけど…いいよな?」


「はい!!」


 二人は微笑み合う。

 僅かだが『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』に持ち前の明るさが戻って来た。

 ユッキーは改めて仲間の重要性を実感したのだった。




「カイコ虫は神出鬼没だが、太々ふてぶてしくも堂々と飛んで来るので発見はし易いんだ…」


 一行は見晴らしのいい小高い丘に来ていた。

 ここからなら付近の森林や畑などが一通り見渡せる。


「みんなで手分けして見張っててくれよ~」


「はい!」


 各々別方向に向き周囲を警戒する。


「『サーチ』!!」


 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』が『サーチ』を唱える。拡がる風。


「おお!! ツバサ、いい魔法持ってんじゃないの!これなら奴の先手を取れるかも知れないな!!」


「えへへ…」


 褒められて悪い気はしない。


 ピーピーピーピー…!!


 早速サーチに反応が出た。


「見つけました!!あっちです!!」


 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』が指差す空に大きな影が見える。


「来やがったな!!アイツがカイコ虫だ!!」


 アノコロワ~~~


 おかしな鳴き声を発しながら徐々に近づいて来る。

 全身が真っ白な毛で覆われた巨大な蚕蛾かいこが

 触角にも幅広の毛が生えている、真っ青な複眼が不気味だ。

 向うもこちらには気付いているはずなのだがカイコ虫は悠々と羽ばたいていた。


「チキショウ!! アイツ、何度か戦ってアタイが高い所に攻撃できないのを学習してやがるんだ、舐めやがって!!」


 空を見上げ歯噛みする『森の守護者フォレスト・ガーディアン』。


「さあ…頼むぞツバサ!!いっちょ奴に一泡吹かせてやってくれ!!」


「はい!! 『スカイハイ』!!」


 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』は一気に上昇、カイコ虫に向かって飛翔する。


 アッ…アノコロワッ?


 飛行して接近してくる『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』を見て明らかに動揺しているカイコ虫。

 恐らくは空を飛べる魔法少女と戦った事がないのだろう。


「受けなさい!!『エアリーアロー』!!」


 バージョンアップ後初めて使う攻撃魔法。

 唱えた直後から変化があった。

 空気を凝縮して生み出された矢が無数に出現したのだ。

 そして目にも止まらぬ高速で次々とカイコ虫めがけ射られていく。


 アッアッアノコロワ~!!


 空気の矢は無数の穴をカイコ虫の羽に開けた。

 堪らず悲鳴を上げながら落下を始める。


「やった~!!」


 大喜びする『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』。


「よし!!イケル!!」


 『森の守護者フォレスト・ガーディアン』が下の方で拳を握りしめる。

 勝利を確信したその瞬間…。


 アノコロワ~…ハッ!!


 カイコ虫が奇妙な鳴き声をしたかと思うと複眼が青から赤に変わり、瞬時に羽に空いた穴が塞がってしまったのだ!!

 そしてまた目の色は青に戻る。


「ええっ…!? どうなってるの…?!」


 アノコロワ~!!


 態勢を立て直し上空に舞い戻って来たカイコ虫は『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』より高い位置に向かって舞い上がり、今度は空中に制止すると小刻みに羽根を震わせる。

 すると何か黄金色に輝く粉末が大気中に漂い始めた。


「今度は…何?」


 その粉が『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』の身体に降りかかった途端急に彼女の身体に異変が起こる。


「…かっ…身体が痺れる…息が…出来ない…」


 喉元を押さえて苦しみ意識を失い真っ逆さまに落下する『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル


「こいつはヤバイぞ…!!『バドクッション』!!」


 『森の守護者フォレスト・ガーディアン』が咄嗟に魔法を唱えると

地面から巨大な植物の蕾が現れ『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』の落下地点に移動する。

 彼女がその蕾に落ちるとまるでトランポリンの様にバウンドしたのだ。

 そして『森の守護者フォレスト・ガーディアン』がジャンプ一番!

 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』を抱きとめた。


「…大丈夫かツバサ!! 『アンチパラライズ』!!」


 『森の守護者フォレスト・ガーディアン』の腕の中でぐったりしていた『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』の痺れが回復し意識を取り戻す。

 『アンチパラライズ』の魔法は主に麻痺や混乱を回復する効果があるのだ。


「…あ…」


「済まないねツバサ…まさかヤツにあんな能力があったとは…」


 幾度かカイコ虫と戦った事がある『森の守護者フォレスト・ガーディアン』だったが決定打を与えた事が無かったのでカイコ虫に特殊能力を使われずその情報が無かったのだ。


「…まだやれます!! 『スカイハイ』!!」


「ちょっと!!ツバサ!!闇雲に戦っても駄目だって!!」


森の守護者フォレスト・ガーディアン』の腕を離れ再び空へと飛び立つ『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』。


「『エアリーアロー』!! 『エアリーアローーーーー』!!」


 無数の風の矢が何度も何度もカイコ虫を貫くが


 アノコロワ~ハッ!! ハッ!! ハッ!!


 あちらも何度も何度も回復して襲って来る。


 このカイコ虫と言うカキン虫はさほど強力では無いのだが、空を飛び回るのと不思議な回復能力を使うのが実に厄介だ。


「…はぁ…はぁ…はぁ…」


 肩で息をする『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』は

 既に体力が限界に近付いている。

 しかし相手であるカイコ虫は全く疲弊しておらずピンピンしている。


 アノコロワ~!!!


 その様子をみてチャンスと見るやカイコ虫が猛スピードで突っ込んで来るが『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』は疲労で動きが鈍り回避動作が遅れてしまった。


「…くっ…」


「ツバサ~~~!!!」


 ユッキーの悲鳴にも似た絶叫が響き渡る。


「…ああ…」


 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』は眼前に迫って来た巨大蛾に戦慄した。



「『ジャックポット』!!」



 突如空に巨大な裂け目が現れ、そこからおびただしい量のゴールドコインが滝の様に降り注ぐ。


 アッアッアノコロワ~!!!


 カイコ虫はもろにその直撃を受け地面にたたき伏せられた。


「何をしているのかしら…? わたくしの親友の力はこんな物ではなかったはずよ?」


「ああっ!!」


 声がした方に顔を向けるとそこには…!!

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