或る『場所』からの脱出。心は逃げ場ではなく、生きる場所に向かって……。

「何も知らない」ではいられなかったでしょう。
イヴが楽園の果実を知ったように。
地域に根差す祭りをきっかけに、子どもたちは或る異変に気付きます。
気付いてしまったら、もう引き返せません。

「思い出さず」にはいられなかったでしょう。
自分が子どもで在ったころを。
近未来、少子化が進み政府が破綻して自治体により管理される社会。
自警組織に勤める大人が、或る子どもの記憶に関わっていきます。

読み始めたとき、ふたつの「章」の境界は確かにあります。
読み進めるうちに境界が見えなくなるかの如く、ふたつの「章」が合わさります。
異なる線の上と思われた出来事が、ひとつの線の上に集められていく過程が実に見事で、小説という媒体をエンターテインメントとして此処まで高められるのだと、感慨深く拝読しました。

『楽園の子どもたち』というタイトルが香らせる場所。
永遠のディストピアなのでしょうか。それとも……。
登場人物たちが過去に想いを馳せる時、浮かび上がる思い掛けない「どんでん返し」と、其処に至るまでの物語の交差と収斂を、ぜひ多くの方に味わっていただきたく思います。

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