第7話事故を起こした青年

母娘の二人を殺し、死刑になった男は、山の方へ向かい、そして急に姿が消えた。

ちょうど消えた所あたりが、10m。その先にも草原は広がっているのに。



「あの彼が、健吾君がいる間に戻ってくるのは、無理でしょうね」

奥田神父さんが、男の消えた方を見てる。

「神父さん、あの男にとって、苦しい事ってなんでしょうね。人を苦しめ殺す事を楽しみ

、それどころか、その被害者の苦しい思いを体験しても笑ってる。

そんな男に、苦しい事ってあるんでしょうか?」

僕の疑問に

「これは、私の想像なんですけど、彼は、人生すべてゲームにして楽しんでたのかもしれません。

自分の命ですら、ゲームのようコマのように、もてあそんでました。

自分に役を与え、他人にも役をおしつけ、駆け引きを楽しんでいた。

それが、彼の人生だったのでしょう。

でしたら、そういう事が出来ない状況が、彼にとって地獄かもしれません


地獄は、前もいった通り、人、それぞれなんです。

言われてるような、魔物の多く住む地獄なら、彼は魔物の殺戮に

幸せを感じるでしょう。それじゃ、地獄になりませんからね」


僕はどうなるのだろう。あの海のような川を泳いで渡るのか、

それとも地獄へ行くのか・・

川を泳ぎきれなかったらどうなるんだ。

もし、地獄へ行けば、中高生時代のようなイジメにあうのか。

そう、いじめで思い出した。あの男と同じような目をしたヤツ。

僕が苦しんでるのを、後ろで笑って見てたヤツ。

その男に、僕は町で出会ったんだ。

それで、怖くなって、あまり外出しなくなった。


僕は、思い出そうと必死にしてただけなんだけど。。

由香里ちゃんの、明るい声が、僕を現実にもどす。」

「ほら、何、ボーっとしてるの、電車がついたわよ。お湯を沸かして。

お客さん、多そうよ」


10人以上の客が、一気に喫茶室にやってきて、大忙し。

由香里ちゃんもフル回転で 働いる。

まずは、紅茶を全員に出し終わってから、神父さんが、それぞれの話を

聞いてまわった。僕も由香里ちゃんも、お客さんに話かけられる。


基本、思い出話や自慢話、時々 未練話。

今回は人数は多いけど、こちらあ話しを聞くだけだった。それだけで、お客さんは

満足して、川を渡っていった。

普通に水の上を歩いてる

岸辺で、犬やねこ、鳥、トカゲ・・いろんな動物が待ってる時がある。

生前、かわいがっていたペットだろう。

一緒に歩いて消えていく。

今回も泳いでる人も溺れる人もいなかった。


全員、いなくなって3人で一休みしてた。

由香里ちゃんは、僕が紅茶を飲まないのを不思議がってたが、

神父さんに紅茶も水も禁止されてる、というと、黙ってしまった。


あれ、まだ電車は残ってる。

ああ、この間のような ”地獄行”のような人が来るのだろうか。

珍しく、車掌さんが、痩せて小柄な青年を、肩を抱くように連れて来た。


「いやいや、自分が車で事故死させたしまった女の子が

後についてきてるって、私の傍を離れないんですよ。この男性」

男性は周りをキョロキョロ見回してる。車掌は、”ほら女の子は、いないでしょ”

となだめてる。

「後は、私が引き受けます。ご苦労さまでした」神父さんにバトンタッチだ。

車掌が電車に戻ると、霧のように消えていった。


神父さんと僕で震える青年をささえ、喫茶室に座らせた。

席は、僕の働くカウンターのすぐ横の席。

紅茶を出すと、青年は一気に飲みほした。あれ?ぬるかったのかな。

お湯は沸かし返して、熱いはずだったんだけど。

僕はお替りを出す。


「僕は、トラック配送の仕事中、誤って女の子をひいて、死なせてしまいました。

それから、ずっとその子は、霊になって、僕の後をついてきます。

何も言わず、ただ、僕を責めるような眼でじっと見てる。

5歳のかわいい女の子で、恵美ちゃんという名前でした。

言い訳になるけど、事故は急に飛び出してきて、ブレーキかけたけど

間に合わなかったんです。

交通刑務所を出たあと、恵美ちゃんの両親へ、慰謝料・賠償金、払えるだけ払った。

仏前で謝罪しようと、家を訪問したけど、玄関にすら入れてもらえなかった」

青年は、うなだれてる。


・・それにしても、この紅茶、何かの作用でもあるのかな。

一気に話した青年は、又、周囲を見てる。


「恵美ちゃんのご両親が、あなたの謝罪を受け入れるまで、

我慢できませんでしたか?」

神父さん、親なら、そんな場合、一生許せないだろうと僕は思うよ。


「ギリギリまで頑張ったんですけど、事故の後から 恵美ちゃんの霊が、

僕の後をどこにでもついてくる。

責められてるようで、気が狂うほどつらかったです。

恵美ちゃんの未来、僕が奪ってしまったんですよ。どうやってつぐなったらいいか

わからなくて、結局、気がついたら、電車に飛び込んでました」


そこまで話、また紅茶を一気に飲みほした。

そうして、また、あたりを見回し

「ホームの柱の陰とかに、黄色いワンピの恵美ちゃん、いませんか?」

僕と由香里ちゃんはみてみるが、もちろん誰もいない。

「恵美ちゃんはいませんよ。

生きてる間にあなたが見たという、恵美ちゃんの幽霊は、あなたの心が作り出した幻覚ですね。

この駅にはいませんし。あなたを待ってもいません。

もう川を渡って、向こう側へいったのでしょう。

もう一度、よく見て下さい」


青年は、神父さんの言葉を確かめるように、くまなく恵美ちゃんの姿を探してるようだった。

「ここは彼岸。あの世とこの世の境目です。

あなたは魂の状態で、ここには長くいる事は出来ません。

向こう岸に渡らないといけません」

その言葉に青年はうなだれる。

「僕のいく所は地獄じゃないでしょうか、そのほうがいいんだ」


心の病で自殺した人は、まだあった事ないけど、この人、事故を起こしたあと

ノイローゼだったのかも。

魂だけなったのに、まだ苦しいのかな?


「あなたは、事故のあと、かなりお辛かったんですね。

こちら側をみて下さい、何が見えます?」

神父さんが、ホームの反対側、山のほうをしめす。

僕には相変わらず、険しい崖のような山に見えるけど。

青年の言葉は、意外だった


「こちら側は何もないですね。ずっと草原が広がってるだけ」

「本当なら、山が見えないということは、

あなたの地獄は、事故の後の現世にあったんです。もう贖罪は済んでます。」


贖罪・・確か罪を贖う、つぐなう事だったかな。

この青年は、常に幻覚をみるほど、悩んでたんだものな。

僕も実際、いじめられてる時期は、苦しくて死にたかった。朝、起きるのも憂鬱だった。

一人で悩んでもしょうがなかったんだよな、今思うとさ。


「本当にもう、いいんでしょうか、僕は人、一人殺したんです。

恵美ちゃんは、僕を恨んでるはずです。幽霊になってついてくるぐらいですから」


幻覚って奴は、本人には現実と区別できないらしい。悩みすぎて心を病んだ証拠だ。


「恨んでるのなら、この彼岸で必ず、その心を残して行きます。

その子の恨みは、残ってないです。あなたは、現世でその罪を償いました。

どうか自分の事を許してあげて下さい。自分が自分自身を許さなければ、

神様もどうしようもありませんよ」

青年は、少しか元気になったところで、神父さんが駅舎で

青年の切符で 現世の映像を映した。

いやがる青年の背を二人で押して、映像をみせる。


「あ、ここは、実家だ。そう、僕の身内や親せきにも大分迷惑

かけてしまった。折り紙おってるのは、姪っ子由依ちゃん。」


その由依ちゃんと母親らしい人の会話も、聞こえて来た。 

(由依ちゃん、何を作ってるの?)

(靖男おいちゃんのためのお舟。爺が さんずの川を フネでわたるって

いってたから。おいちゃんがフネにのれなかった時のために)

(そう、それは、靖男おじちゃんも喜ぶはね。鶴も、つくろうか。

無事に天国へつきますよう、お祈りを届けてもらうのよ。

事故を起こしたあと、靖男おじちゃん、毎日、苦しそうだった。

天国では幸せに暮らせますようにって願いをこめてね)


空から、折り紙のフネがおっこちてきた。

青年・靖男さんは、目を丸くして 喜んだ。緑色の舟の折り紙を持ち、

しくしく泣きだした。”ありがとう由依ちゃんありがとう”ってつぶやきながら


「さあ、その舟をもって 行きましょう」

おい、おい、紙の舟では無理だろうが 

と心の中で神父につっこみいれつつ、4人で岸辺に一緒にいく。

紙の舟は、本物の舟になる ・・ことはなく、紙のまま。

青年は折り紙の舟を手に歩いてる。青年の上には、折鶴が飛んでいた。


青年は、海の上で振り返えり、神父さんに一礼すると、消えていった。


「ふm。対岸に祖父母らしき人が、まってましたね。

これで安心です」

僕には対岸は見えない、つまりあの世は遠いてことか。

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