1浅い眠りと浅はかな決断と

 無限に広く感じる空間でゆらゆらと揺れていた。


 体を空気に委ねるようにしていると心地よく、この眠りをさらに深くしていく。


 目を開けると今までの記憶がそこらかしこに散らばっていて繰り返し再生されている。


 いくつもの小さなブラウン管に映し出されている映像は直視できないものから何度も見ていたいものまである。


 少数派に入って忙しくなった毎日の映像は映画のような濃い作りである一方、それまで無駄に過ごしていた日常は退屈なドラマだ。


 白黒で映し出されて音声もなく曖昧な字幕で流れている古く懐かしい記憶でも十分に楽しいというのに。


 カラーで映し出された最近の音楽をBGMとして流す全く同じ映像を繰り返され続けていては見る価値すらない。


 ふと、視界の端で特異なテレビを見つけた。


 目を凝らしてみるとそれは真っ黒の画面でありながら電源は入っているようで明かりは照らしている。


 近付いて見るとそこに俺の顔が映し出された。


 映像ではなく、ただ俺の顔が画面に反射しているだけではあるがそれを意図しているように見える。


 じっとこちらを見つめる痩せた顔と生気のない瞳。


 不気味になってテレビから逃げるように離れると周りを闇に囲まれた。


 混沌を濃縮したような深い黒は全身に不快感のみをもたらす。


 いつもなら、夢から覚めてもいい時間であるのに一向に覚める気配がない。


 まだ目をつぶった暗闇の方がマシだと瞼を閉じると声が聞こえる。


 低いような呟くような声で俺を誘惑してきた。

―――この闇から逃れたいなら契約しろ、と。

ただ、何だって良いからこの闇をどうにかしてくれと叫んだ。



 再び目を開けると、体が重く眠気と頭痛がした。


 この闇に劣らないい不快感をくれるのは現実だと直感する。


 やっとあの最低な夢から覚めたのだと。



 窓から空を見上げると大きな歯車が回っていた。


 それだけじゃない。自分の身体中に歯車が回り続けている。


全てが嫌になって再び目を閉じる。


 そこにはさっきの声の持ち主であろう闇が滞在していた。

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