1噂の番組

 日が暮れて晩飯を取り終えた後、自室で寒い中テレビの前の椅子に座っていた。

テレビに映っているのは黒い画面だけだ。テレビに出る者も撮る者も今はいないからだ。


 そんなテレビをただ見つめているのは精神的に気が滅入ったからではない。

日曜日の深夜にだけ放送される番組がある。


 都市伝説のような話で当初は誰も信じなかったが、実際に放送されているものなんだから仕方がない。


 眠気覚ましの熱いコーヒーを片手に待ち構えていると部屋の時計が突如止まる。

放送開始の合図だ。

画面からはデジタルに似つかわしくない砂嵐が流れている。


 数秒その画面が続いたところで調整が終わったかのように鮮明な風景が映し出された。

美しい野原が広がっていてそこには見たことのないような美しい花が咲いている。


 カメラが右に振られながら写された後に声が聞こえる。


「こんばんは生きている皆さん。」


 場面は一転して酷くノイズがかかりオフィスのような部屋の一室で女性が立っているように見えた。


 ノイズ越しにも頭の上の光る輪と背中から生えているであろう白く大きい羽を見て誰もが直感する。

彼女が天使であると。


「今週は21人死にました。ですが、まだ完全ではありません。その世界に生き残りの人達が居ては私が天国を創った意味がありません。」


 天使まるで天国から中継しているような語り草で喋る。

そんな筈はない。天国にカメラなんてあるわけない。


 一昔前ならそんな現代的な天国はあり得なかったが、今の世界の認識では天国と言うのはとてもこちらの世界と似ていた。


 天使は毎週同じこと言う。

もっと人を殺せ。もっともっと。

我ら少数派からしてみれば一番憎き敵が彼女だった。


「私たちのいる天国では皆様の家族やご友人が貴方を待っています。心待ちにしているので早くこちらに来てください。」


 まるで、すぐそこのコンビニまで行くような感覚で天使は呼び込む。

だが、確かに天国に行くにはとても簡単だ。拳銃を自分の頭に押さえつけ引き金を引くといい。


 よくよく考えるとコンビニにいくよりもずっと簡単だった。

天国へ行くのはここで生きるよりは簡単で、死ぬ痛みもここで生きるよりは苦痛ではないだろう。


 天国に行けば悩みも不安もなく、大切な人も待ってくれている。

この数えきれない悩みだって死を恐れることもなくなる!

そうだ!ならば、今すぐいこう!思いきって死のう!

ただ少しの苦痛で楽園へと逝けるなら安いものだ!


・・・何てことにはならない。

生きることを選んだ人を天使の考えに則って無理矢理殺した天国教でも死ねば天国へ行けるなんて許せない。


 天国で待っている大切な人達を殺したのは他でもない天国教だ。

天国教の思うように進ませて良いはずがない。


「それでは、待っています。」


 ノイズがさらに酷くなり仕舞いにはまた黒い画面へと戻る。

毎週同じことばかり言っていて録画を使い回しているのかとも思ったが微妙に間やアクセントの違いからそうでないことが分かる。


 天国教が天使に扮して放送しているとも考えたが、奴等ならこんな無意味なことに時間を使わずに自ら殺しにかかるだろう。


 椅子に深く腰がけ考える。

後どれだけ信者を殺せば良いのだろうか。


 向こうは俺達を皆殺しにして自分も自殺すれば全人類の天国行きが完遂する。


 こちらが天国教を皆殺しにしたところでいずれは人の寿命がきて死んでしまう。


 不死の力も皆殺しにした時点で天使が取り上げてしまうだろう。


 天使からしてみれば、天国教が生きているのも面白くはない。


 だから、少数派にも能力を与えて互いに殺し合うように仕向けたんだ。


 タバコに火をつける。

いくら考えたところでどうしようもなかった。


 ただ、天国教のやつらを皆殺しにするまでは納得できないだろう。

そう考える。

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