第33話

 ミラーで火を噴いた銃口を確認する。このまま打っても石柱に弾かれるだけのはず。そんな事は女も重々承知だろう。では、何故撃った? 当てられると思っているから。そういえば、女は、自分は『真正』の能力者だと言った。しかし、使っているのは拳銃だ。では、あの女の能力は一体――

「ぐあっ!」

「……命中」

 今度は左肩に命中した。激痛が走る。しかし、痛みに気を取られている場合じゃない。今、ミラー越しに確かに見た。

 弾丸が空中で向きを変えた。

 弾丸の軌跡を目で追えるとは、動体視力も尋常ではなく上がっている。


 おそらくあの女の力は、弾丸の軌道を捻じ曲げる事。


 だとしたら――


 連は転がる様に柱の陰から出る。その一瞬後、連が元居た場所に弾丸が撃ち込まれた。

(弾丸の軌道を変えられるのだとしたら、遮蔽物は何の意味もない!)

 引くか、進むか。

 一瞬の判断。

 連は進む事を選んだ。

 このまま後ろに下がっても狙い撃ちにあうだけだ。弾丸の軌道を曲げられるなら、遮蔽物に隠れながら後退というのも難しい。

 ならばいっそ進む。

 自分の力は『刀』だ。それなら距離を詰めた方がまだ対抗できる。

 普段の走力に比べれば驚異的なスピードで連は、女に迫った。身体能力は間違いなく上がっている。

 だが、真っ直ぐ走る連は、女にとっていい的だろう。二人の距離はおよそ二〇メートル。その間に何度弾丸を叩きこまれるか解らない。

 そして、女の拳銃が再び火を噴く。

 また撃ち抜かれる。

 だが、今の連は身体能力が上がっている。

 動体視力も超人的になっている。

 だから、


「ハッ!」


 連はギリギリまで引きつけた弾丸を、刀で


 「驚異的な眼」、「驚異的な身体能力」、「驚異的な切れ味の刀」。その三つが合わされば、弾丸を逸らす事も不可能ではなかった。


 軌道を逸らされた弾丸は連の後ろへと流れて行った。


 弾丸を斬り落とさなかったのは一瞬の判断だった。

 確かに、連には弾丸を両断するという選択肢も現実のものとして存在した。しかし、それをしなかったのは、昔テレビで見た光景が頭をよぎったからだった。

 「銃と刀はどちらが強いのか」。そういったテーマの元に行われた企画だった。固定した刀の刃に向かって銃を撃つ。そのとき、正面からぶつかり合った弾丸と刀はどちらが勝つのか、というものだった。

 結果を言えば、刀が勝った。弾丸は見事両断されたのだ。

 しかし、両断され、二つに分かれた弾丸そのものは勢いを失わず、後ろへと飛んで行った。

 これを今の状況に当てはめてみる。もし、連が弾丸を両断していたら二つに分かれた弾丸はほとんど運動エネルギーを失う事なく、連の肉体に直撃しただろう。これでは、せっかく弾丸を斬った甲斐がない。

 だからこそ、慎重に刃を弾丸に当て、軌道を逸らすに努めた。これならば、弾丸が肉体に直撃する事はない。

 そして、連は勢いを落とすことなく、女へと迫った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る