第27話

「うおおおおおおおおおおっ!」


 後はもう滅茶苦茶だった。俺は手にしていたナイフで犯人の男を滅多刺しにしていた。男は何故かただ立ち尽くし、されるがままだった。俺はほとんど意識が飛びかけた状態で、男を刺し続けた。


 刺して、刺して、刺した。


 男が倒れ、動かなくなる。


 それでも、刺して、刺して、刺した。


 男の身体が血まみれになる。


 やっぱり、刺して、刺して、刺した。


 俺の身体はいつの間にか返り血で染まる。


 ずっとずっと、俺は刺し続けた。


「お、お……」

 その時だった。

 確かに声が聞こえた。

 凛の声だった。

 その声にやっと我に返る。

 まだ、凛は生きている。

 馬乗りにまたがっていた男から飛びのき、凛の方の駆け寄る。

「凛!」

「あ……あ」

「凛!」

 改めて確認した凛の惨状は酷かった。テーブルの上に転がされ、両手両足を切断されていた。それでもなお死んでいなかったのは、おそらく傷口をはんだごてで焼いていたからだろう。漂っていた焼けた肉の臭いはきっとそのせいだ。そのために失血死せずに済んでいたのだ。

 助けなきゃ。でもどうやって。とりあえず、助けを呼ばなくちゃいけない。

 その時、男の方を振り返る。

 まだ息をしている。

 滅多刺しとはいえ、子供の力だ。急所を狙った訳でもない。もしかしたらすぐに起き上がるかもしれない。

――だったら、とどめをさしておかなきゃ


「だめだよ……」


 凛は血の泡を吹きながら、そう言った。

 冷静になって考えるとそんな状態でまともに喋れたとも思えない。現実的に考えれば、それは幻聴だったのかもしれない。


「――お兄ちゃんは……正義の味方……」


 でも、その時の俺には、確かにそう聞こえた。


 聞こえたんだ。

 正義の味方がする事。

 それは悪人を殺す事なんかじゃない。

 誰かを助ける事なんだ。

 何かを守る事なんだ。


「待ってろ! すぐ助けを呼んでくる」

 俺は走った。


 助けてください、助けてください、助けてください。


 凛を助ける為なら何だってしますから。


 嫌いなブロッコリーも食べます。


 もうゲームが欲しいだなんて言いません。


 困っている人が居たら絶対に助けます。


 だから、神様、凛を助けて……!




















 凛の死亡が確認されたのは、翌朝の事だった。


 そして、犯人の男は生き残った。


 俺は神様を恨んだ。




 そして、何より妹を助けられなかった自分を恨んだ。

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