第24話


「誰かを守れる様な人間になれよ」


 父は事あるごとにそう言っていた。母親は凛を産んですぐに亡くなったらしい。俺が五歳の時の事だったから、ほとんど母親の記憶はなかった。

 警察官の父は、俺の憧れだった。子供のしつけには厳しい人だったし、怒鳴られると身体が竦む位怖かったけど、それでも、強い父は俺にとっての『正義の味方』に違いなかった。

 凛が『正義の味方』って言い出したり、俺がそれに憧れたりしたのは、この父の影響が大きかったのかもしれない。

 父は剣道の有段者だった。幼かった俺達兄弟を時々道場まで連れて行った。

 父は強かった。警察署内での剣道部の中でも一、二を争う実力だったし、大会でもかなり良い成績を残していた。

 父は、剣道場に通っていた俺に、時々直接指導してくれた。小学生に当たるとは思えないほど、その指導は厳しいものだった。だが、それだけに何かが自分の身になっている。そんな実感を与えてくれる物だった。

 倒れるまで素振りを続けた帰り道。父の背中におぶられながら言われた。

「誰かを守れる様な人間になれよ」

 その時の父の気持ちは今でも解らない。何か思う所があってその言葉を選んだのか、はたまた耳触りがいい教育的な言葉を探した結果だったのか。


 それでも、その言葉が俺の心の奥底に強く刻まれていた事は間違いがなかった。


 「誰かを守れる様な人間」。それが、俺が憧れた『正義の味方』の姿だった。

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