第3話 下駄と焼き味噌。

 あいつの名前を忘れていたな。

 俺が名前を聞いた時、同時にあいつも自己紹介をしてくれた。

 が、やっぱり名前は表し難いものだ。口では辛うじて言えていると思うが、平仮名片仮名では絶対に無理だわ。

 だから、ここでも別の名前を使おう。と言うか、こいつの名前は既に考えている。

《アリス》としておく。色の白いところや髪色は似ている。尤も彼女はショートカットだったしスカートなんて滅多に履かなかった。

 何故アリスかと言うと、有栖川が好きなだけだ。深い意味は特にないと思う。


 彼女と会った日、俺は本当馬鹿なんだろうな。

 俺は向こうの言葉を学ぶのではなく、彼女に日本語を教えていた。向こうも吝かではなかったようだが、今思うと本当に頭可笑しいわ俺。

 コミュニケーションが取りたかったのもあるだろうけどさ、何となく、ゲームでもやってる気だった。

 彼女は彼女で一生懸命に学ぼうとしていてさ、俺は怠けたかっただけだったのかな。

 解んね。

 その日の夜は、正直寝れんかった。

 隣の部屋であの美女が寝ていると思っただけで、ぶっちゃけ勃起が静まらんかったわ。そんな他人の家で抜く訳にもいかねえだろ。我慢して寝たよ。

 畳に合わせた家具ばかりだったから、無論ベッドなどと言うものはなかった。


 まあ寝れないのな。

 こんな状況、頭が認識する事を拒否し始めているのが解った。鞄の中に入ってあったメモに、当時の出来事を綴った。

 写真でも貼り付ける機能があればメモを見せたいところだが、生憎撮影機能がある機器が無い為、スマホを買い替え次第どこかに公開しようかなと思っている。

 その時の内容は大体以下の通り。


「・例え瞬間移動、もしくは異世界に来たとして、帰る方法はあるのか?

 ・日本ではない。しかし、私の居た世界の異文化同士混合させたような環境、だと睨む。日本家屋に外人とかな。だが異世界に飛んだと考えるのはまだまだ早計である。

 ・ここの言語は発音が非常に難しい。

 ・アリスと言う女性は、多少なりとも日本語を話せる。もしかすると日本で言うところ英語程度には普及しているのか?

 ・米を持っていたが、海岸近くで作れる場所などないのでは? 潮の影響で農作物は育て難いのでは? もしそうなら、彼女は少ない米を分け与えてくれたと言う事になる→疑うべきか? 違うのならば、彼女はどこかに田圃を所持している? もしくは、近くに街がある?

 ・何にせよ、明日は街の事聞いて、連れて行ってもらおう。一日日本語教えるなどと言う馬鹿な事をしたが、私が1から向こうの言葉を覚えるよりは早いだろう。彼女が予想以上に覚えが早く、また従順な女の子だったから割とすぐ話せるようになった――――いや。本当にこの短期間で覚えたのか? それにしては少し、違和感があるような……。

 ・日本ではない(二回目)。しかしどこの国かと言えば、私には解らない。聞いた事のない言語だと言う事は解る。生活の形態によっても立ち回りが微妙に変わるだろう。社会主義などと言われれば、勝手が全く解らない。生活を知る事が必要である。

 ・アリスの収入源はどこだろうか。前述の通り、社会主義ならば特に気にせずともよいだろう。資本主義ならば、興味がある。」


 等々。

 全て聞かなければならない事だ。

 俺のメモ書きが悪いからだろうな、書き終えても整理出来なかったわ。

 結局その日は抜いて寝た。

 ティッシュみたいなの? あったけど余り個数なかったから、高価じゃないのかと思って、トイレにあった硬い紙に出しといた。

 普段乱暴にやってたからくっそ痛かったわ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る