【デイトナUSA&ティンクルスタースプライツ&パカパカパッション&ジョイメカファイト】

対決半島(後編) 1/3

【コンティニュー】


 いらっしゃいませ。

 前回、新屋家に勝負をふっかけられた古本屋『ミレニアムブックス』。その内容は、秋穂県秋穂市から女鹿半島を目指して移動していき、その道中でゲーム対決をして陣地を取り合おうという、どこかで聞いたような対決。しかも、チーム・ミレニアムブックスが負けたら、店長大平の苦手なパズルゲームの強化合宿を山奥で一週間行うという罰ゲーム付き。

 秋穂市からスタートし一日目は三戦を行い、チーム・ミレニアムブックスは二勝一敗、対するチーム・新屋家は一勝二敗。勝ち数では大平たちのミレニアムブックスのほうが多いのだが、勝負は陣地の広さ。ポイントでは626対906と、新屋家の大幅リードとなっている。なんと、スタート地点の秋穂市の面積が大きすぎて、負けた側はそれ以外の地域で全勝しなければ勝ち目がないというなんともバランスの悪いゲームになってしまっているのだ。

 大平率いるミレニアムブックスが連勝を続けて合宿を回避するのか。はたまた亜也子率いる新屋家がこのまま逃げ切って山奥でパズルゲーム地獄となるのか。

 緊迫しているんだかしていないんだかよくわからない後半戦、どうぞ。



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【二〇一三年五月八日 七時三〇分

 三実町 琴森温泉郷 琴森の宿】


「うーん? ……うーむ」


 夕食に続き、これまた地元の特産品を使った美味しい朝食を食べながら、黒セーラー服にロングストレートの黒髪が似合う美女、亜也子が首を傾げている。


「どうしたのさ亜也子さん」


 亜也子の夫である、隣で同様に朝食を味わっている新屋政仁、通称新政が問いかける。


「夢の中で対決していた、ような……」

「そうそう! 僕もなんか、亜也子さんがスーパーゼビウスをプレイしているところを夢で見たような気がするんだよね」


 そんな新屋夫妻のやりとりに大平が食いつく。


「ああ、そう……。って、それ夢じゃないし! 二人とも対決始めて速攻で寝落ちしてただけだよ!!」

「えー覚えてなーい。対決なんてしてないしー。あ、じゅんさいおいしい」


 大平のツッコミにストレートにすっとぼける亜也子。


「この企画自体無かったことにしてやるぞぉ……。とにかく、AREA2で寝落ちしたチーム・新屋家の負けだよ。旭川くんはちゃんとそこ越えてたしね」

「洞窟の面が難しいですねーあれ」

「うわ、初プレイでそこまで行ったんだ、すごいなー」

「店長のアドバイス付きですけどね」


 新政の素直な賞賛の言葉に、てへへ、と照れる旭川。なお、本日もポニテメイドスタイルは続行のようである。


「ねえねえー、今日はどこに遊びに行くのかなー?」


 いち早く朝食を完食し幸せそうにぼんやりしている高清水が、今日の予定を質問する。


「遊びに、っていうか、まあ間違ってはいないような気はするけど、一応対決するという名目があるから。この後宿を出て、九朗潟村での対決と、最終決戦の女鹿市、って感じかな。それでいいんだよね? 亜也子さん」

「そうそう、そんな感じ! 対決場所も内容も大平くんに任せた!」


 ばーん、と大平に両手の平を差し出して、すべてお任せというジェスチャー。


「丸投げかよ! まあ、昨日からずっとそうだったからいいっちゃあいいんだけど。じゃあみんな、九時に出発するからそのつもりで準備すること」


 はーい、と皆が素直に返事をする。なんだかんだで、大平の皆からの信頼は厚いようだ。



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【二〇一三年五月八日 九時一五分

 三実町 国道7号線】


 滞りなく旅館を出発し、昨日来た道を戻っていく大平ワゴン。 国道7号線を南下していく。


「さてさて、九朗潟か……。何かいい対決ネタはないものかな」

「九朗潟村と言えば、レースじゃないですか? ソーラーカーとか、自転車とか」


 旭川からの提案。おそらくニュースとかで見たことがあるのだろう。


「確かにね! 毎年なんかやってるよね。見にきたことないけど」


 高清水も同様に知識として知っているだけのようだ。

 確かにこの日本第二位の面積を誇っていた九朗潟を干拓してできた広大な九朗潟村を使って、毎年ソーラーカーレースや自転車のレースが行われているのだ。


「うーん、確かにレースゲームはまさしく対決にうってつけだけど、今回持ってきてないんだよな。『R4』でも持ってくるんだったな」

「あれ、大平、九朗潟村行くならさっきのところ右じゃなかった?」


 助手席の新政が道の間違いに気付く。


「え、あれ、曲がり忘れたか!?」


 ちょっと焦って周りを見渡す大平。普段ほとんど来ないような地域なので無理もない。


「しまったな、ゲームの方に考えがいっちゃってたな」

「事故らないよう気をつけてね。どっかで止まって考える?」


 大平を少し落ち着かせようと亜也子が気を利かす。


「そうだな……。いや待てよ、もう少し進むとしよう。俺の記憶が確かならば、いいところがあったような」


 大平は何かを思いついたらしく、そのまま進んでいく。

 五分ほど進むと、赤や青の原色バリバリ、派手派手しい色遣いの看板が見えてくる。


「あった! ここにしよう」



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【二〇一三年五月八日 九時二五分

 九朗湖町 ピットインQ】


 ぞろぞろと連れ立って店内に入っていく一行。

 平日午前のこんな田舎のドライブインなので、他の客は誰もいないようだ。


「ドライブイン? ずいぶん古そうだけど……あ、ゲームコーナーか!」


 入口を入ってすぐのところに新旧様々な自販機がずらりと並び、そこの先にはミディタイプのビデオゲーム筐体と大型体感系の筐体が立ち並んでいる。


「そうそう。しかもこれ、とっておきの対決ネタがあるじゃないか」


 大平が指差す大型筐体の列の端に、『デイトナUSA』が。残念ながら50インチモニター付きのDX筐体ではないが、二台で対戦できるようになっている。


「大平! これで僕と対決だ!」

「奇遇だな新政、俺もそれしかないと思っていたんだ」


 途端に色めき立つ新政と大平。


「あれ? なんかあたしたち置いてけぼり?」


 高清水がキョロキョロとみんなを見渡す。


「いいのいいの。これはもう、宿命の対決らしいからさ」


 完全に置いていかれている高清水と旭川に、亜也子が説明する。


「なんかあの二人、デイトナに関しては学生時代にさんざん勝負したらしいんだけど、常に勝ったり負けたり、とにかく完全に負かしてやることができなかったみたいよ、お互い」

「一五年越しの大勝負、ということですか」

「そ、だからここの対決はもう任せておいて、高みの見物といきますかね」

「これはこれでなんか楽しみですね!」


 旭川千秋、素直ないい子。

 大平は左、新政は右。それぞれすでに座席に着いて、シートの位置の調整やシフトレバーの感覚の確認をしている。調整をしながら、大平が対決について宣言し始める。それぞれのチームメイトは、座席の後ろから画面をのぞきこんでいる。


「じゃあ九朗潟村『デイトナUSA』対決! ちょっと九朗潟村からは外れているけど、問題ないだろう。勝利条件は単純に、先にゴールした方が勝ち。コースはどれにするか?」

「上級! と言いたいところだけど、一応二人ともブランクがあるだろうから、中級でどうかな?」

「妥当なところだな。いいだろう」

「昨日からずっとそうだが、この対決は今まで以上に負けられないぞ」

「プライドのぶつかり合いですね……。なんか、いいですねそういうの!」


 ぴょこぴょこと跳ねるメイド。ポニーテールもぴょこぴょこ。


「さあさあ、そろそろいいんじゃない? いい? インサートコイン!」


 亜也子の合図と共に、二人ともコインを投入。

 対戦受付中画面が終わり、コースセレクトで中級を選択。『ダイナソーキャニオン』。ミッション選択は、もちろん二人ともマニュアルだ。大平が選択を確定しないまま、新政に話しかける。


「気付いたか? 新政。このマシンの設定は……」


 ニヤッとして新政が横目で大平を見る。


「もちろん気付いたさ! 上等だね!」


 大平はその回答に満足し、ミッションをマニュアルに決定。


『GENTLEMEN START YOUR ENGINES』


 筐体が唸りを上げる。


「なになに? 設定がどうだっていうの?」


 状況が飲み込めていない高清水が座席の間から顔を出して二人に聞く。

 レースはすでにスタート直前。BGMは『Let’s Go Away』。最も有名な『デイトーナー』と歌っているあの曲だ。 ロケットスタートの準備をしながら大平が早口で答える。


「周回数が見えてなかったか! この設定はエンデュランス、すなわち……」


 信号が変わる。『デイトナ』のフレーズと共に二人揃って答える。


「「四〇周!!」」


 きれいなロケットスタート。二台のホーネットが山道へ吸い込まれていく。

 座席後ろの女性陣三名はポカーンとしながらお互いに見つめ合っている。


「遙か彼方に行ってしまいましたね、二人とも」


 なんだかよくわからないコメントをする旭川。


「……わたしの記憶が確かなら、三〇分くらいはかかったかな? うちのおじさんのゲーセンもその設定だったし」


 若者二人に説明を求められているような気がして、亜也子が記憶を頼りに情報を提供する。


「そんな長いんだ!? その辺で他のゲームやって遊んでようよ。五鍵ビーマニあるし、ギタフリあるし」


 高清水は最近では滅多に見かけない音ゲー筐体にうずうずしているようだ。


「そうね、この対決はもうジェントルメンに任せておきましょ」

「ああほら、一応は対決の行く末を見守っておかないと!」


 やはり旭川のマジメな性格では放っておくのは気が引けるらしい。


「そう? じゃ、千秋ちゃんよろしく! おねーさん達は遊んでくるから!」

「えぇー……」


 取り残された旭川の目に飛び込んできたのは、新政ホーネットが派手にぶっ飛んでクラッシュしている場面。車体はすでにベコベコだ。


「ちょ、おま、いきなり卑怯じゃね?」

「おっとすまん、コーナーリングちょっと攻めすぎたかなぁ? でも、トンネル入口で右に寄りすぎているお前が悪いんだぞぉ」


(うーん、ダメな大人だ……。いや、大人? 高校生そのものっぽい感じかな。ゲームが絡むと店長はいつもこんな感じか)


 大平のゲームへの姿勢の原点を垣間見たような気がして、少し微笑ましく思う旭川であった。


(まあ、亜也子さんの言うとおり、この対決は少年二人のものですね。わたしも遊んでこよう)


「がんばってくださいね、店長! わたしもちょっと他見てきますから」


 それでも一声かけていくところは旭川だ。見えていないとわかっているだろうに、胸の前で拳を作ってグッと力を入れる旭川。それに合わせてメイド服のフリフリ部分が揺れる。その応援に片手を挙げて「おう」と短く答える大平。



(うん、筐体の数は少ないけど、なんだかいい感じ。小さい頃に入っちゃった薄暗いゲーセンみたい)


 旭川の小さい頃というと、二〇〇〇年頃の話だろうか。確かにその頃であれば、まだブラウン管のミディタイプ筐体がたくさん並んでいるゲーセンもたくさんあった頃だろう。


(この筐体、見たことある。緑色、ナムコ。こっちのセガのやつは今でもたまに見かけるかも。……いや、ちょっと形が違うのかな。エアロシティって書いてる)


 確かに、アストロシティやブラストシティあたりならたまに見かけるが、エアロシティはなかなかお目にかかれないかもしれない。

 肝心の稼動中のゲームだが、さすが田舎のドライブイン、タイトルのラインナップにまとまりがない。『ゼロガンナー』『ネオ・ボンバーマン』『ライデンファイターズJET』『鉄拳4』、そしてお決まり、脱衣麻雀。


(やっぱり脱衣麻雀はあるよね。でも、脱ぐだけで何が楽しいんだろ。どうせならいろいろ……。ああ、いやいや、なに考えてるんだわたしは。それ以上なにかあったらゲーセンに置けないじゃない)


 そういう問題なのだろうか。恥ずかしい妄想を膨らませて、旭川は勝手に顔を真っ赤にしている。でもやはり気になるのか、『対戦ホットギミック快楽天』というタイトルから目を離せないでいる。


? ……って、うちにもある、あのエロ本!? エロ本とコラボするって、さすが彩京、やはりタダ者ではなかったのか。え、でも、エロ本ってことは、脱ぐだけじゃ……ない!? わたし、気になります……!)


 いよいよ旭川は耳の先まで茹で上がってしまったようである。


(でもちょっと……さすがにプレイしているところ見られたくはないなあ。また今度、そのうち見かけたらプレイしてみよう)


 少し、いや、かなり名残惜しそうな様子でホットギミックの筐体から離れる。



 旭川が二人を探して辿り着いたのは音ゲーコーナー。おだんご頭と黒セーラー服がそろっているのですぐに見つけられるのだ。

 高清水が『GuitarFreaks』をプレイしている。亜也子はそれを見学中だったが、旭川が来たのに気づいたようだ。


「あ、千秋ちゃん、結局見捨ててきたんだね」

「いやいや、見捨ててきただなんて……。とりあえずしばらく決着付かないなら二人だけの世界でいいのかなーって」

「そうそう、ああなったらもうほっとくしかないから。それよりほら、やっぱ泉ちゃんすごいよねー」


 そう言って画面に向き直る。高清水のプレイする曲はロングバージョンである『赤い鈴』。しかも難易度はEXTREME最高難易度。たまにコンボは切れるものの、安定した演奏だ。


「ですよねえ……ちょっとわたしの処理能力じゃ追いつきませんよー、これ」

「そうなんだ? 千秋ちゃんほどのシューターなら譜面追えるんじゃないのかなーと思ってたけど」

「うーん、ある程度ならいけると思いますけど……ちょっとこれはムリです!」

「まあそうだよねー。あたしもシューティングはからっきしだしねぇ」


 プレイしながらも高清水が口を挟む。


「まあ二人がそう言うならそうなのか……。わたしなんかどっちもそこそこだからねえ」

「ていうか泉さんよくそんなのプレイしながら話せますね」

「なんでだろ? 意外といけるねー」


 そしてSTAGE CLEAR。判定はAだ。


「いやーさすがにSはいけなかったか」

「いや、曲をEXTREMEで難なくクリアしてるだけでひくわ……」

「まあ……相変わらずすごいですよね、泉さん」


 もはや自分の認識できる範疇をとっくに超えているため、観客からは陳腐な言葉しか出てこないようである。


「これまだ『XG』のほうのシリーズに入ってないんだよね。早くロング曲入ってくんないかな」

「聞いてないし……」



 4曲設定でロングバージョンは3曲設定。もう一曲プレイできるので、画面は曲選択に戻る。


「もうエクストラは狙えないしなあ……あさきつながりでこれにしよ」


 カーソルを合わせた曲は『こたつとみかん』。


「お、いいじゃんー。作詞あさきというわけね」

「あさき歌詞は明るくなるとカオスっぷりが増しますよね」


 高清水のプレイに合わせて、『調子ノリスギ にょろにょろしすぎ』などと意味不明な歌詞が聞こえてくる。


「ちゃんと聞いたことなかったですけど、これは確かにヘンテコですね……」

「それでいてなんか妙にうまいこと韻を踏んでいたりして、聴いてて飽きないんだよねー」

「♪一列ラインでよろしくねっ!」


 その謎歌詞を口ずさみながら高清水が悠々とプレイしているのだった。



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