対決半島(後編) 2/3

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 高清水のソロプレイ終了後、亜也子が高清水に勝負を挑むが、当然の如く大敗を喫する。


「チートでしょこの子……」

「なんかおかしいレベルでパーフェクト判定出してますもん。亜也子さん、やっぱり泉さんに音ゲーで勝負を挑むのは無謀なのでは……」

「亜也子さん連打のとこオルタで出来るように練習したらもっとうまくなると思うのに」


 オルタとはオルタネイトピッキングのこと。ピックバーを押すときに上下に動かすことで早弾きが出来るのである。タイミングを合わせるのが難しいため練習が必要になるが、高難易度曲を安定してクリアするためにはほぼ必須のスキルとなっている。


「いいの! オルタは使わない主義なんだから!」

「えーそう? でもまあバトルとか久々だったから楽しかったよー。いつでも挑戦してねー」

「勝者の余裕かっ! 今に見てろー!!」


 捨て台詞を残して逃げていく黒セーラー。


「あー、これが対決だったら一勝だったのにね」

「ですね! あ、店長たちのほうはどうなってますかね。戻ってみましょう」



「亜也子さん、こっちはどうです!?」

「まあ、よくも飽きずに……って感じよね」


 亜也子が親指で高校生たちの方を指す。


「そろそろ諦めろっつーの」

「その言葉そっくりそのままお返しだ! トンネル前で飛ばしてやるぞ」


 文句を言い合いつつ、ぎりぎりの競り合いを続けている。


「現在三九周、あと二周ですね!」

「こっちはこっちでおかしいんじゃないの……忍耐力的に」


 先ほどスーパープレイを披露していた高清水からもおかしい発言が飛び出す。

 そして予告通り、トンネル前で幅寄せされ宙を舞う大平。


「うっわ! このタイミングでか!!」

「はっはー、油断したな大平!」

「よし新政くんそのままー!!」

「ファイナルラップですよてんちょう!」

「わかっとるわ!」


 それぞれ自チームのドライバーに声援を送る亜也子と旭川。その横では高清水はなぜかそばをすすっている。いつの間にかレトロなそば自販機で買ってきたようだ。

 トンネルを抜けたコーナーで追いつく大平。しかしそれをブロックする新政。


「抜かせるなー新政くん」

「まかせろー!」

「くっ……邪魔っ!」


 勝負は最終コーナー。

 新政がドリフトを始めた瞬間に後ろから大平が接触。

 新政が大きくスピンしコースの端へ滑っていく。

 大平は体制を保ちつつインへ頭を突っ込みそのままゴールへ突き進む。


「おおお大平さん!」

「てんちょう! すごいテク!!」


 大平の画面に映し出される1stの文字。勝者の証だ。


「やられたよ。いい勝負だった」

「どっちが勝ってもおかしくなかった。最後は俺に運が回ってきたってこった」


 がしっ。握手する男二人。


「いいねえ、青春だねえ」

「熱き男の友情がまた深まる感じですね!」

「うーん……?」


 おっさん二人の暑苦しい小芝居を見ながら、本編の対決はどうなったんだろうとか思い、そばのつゆを飲み干す高清水であった。

 ポイントは906対796。勝負は最終戦へと持ち込まれる。



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【二〇一三年五月八日 一〇時五〇分

 女鹿市 国道101号線】


 一行を乗せたワゴンは、ついに最終目的地の女鹿市に入る。

 車内から見える風景は空き家や原っぱが目立ち、寂しい雰囲気である。

 なんとなく車内の雰囲気もそれに影響されてか、少し静かになっているようだ。

 いや、もしかしたら、旅の終わりに皆何か思いを巡らせているのかもしれない。

 そんな折、空気を読まずに……あえて空気を読まなかったのかもしれないが、高清水が突然何かを思い出し大平に話しかける。


「あ、そうだ大平さん」

「なんだぁー高清水」

「最近面白いブラウザゲーム見つけたんだけど、知ってるかな? 『艦これ』っていうんだけど」


 話の内容も唐突すぎて、本当に空気を読めていないのかもしれない。気にせず大平は答える。


「んー、なんかタイトルだけどっかで見たような気がするけど。面白いのか?」

「面白いよ! ソシャゲにありがちな課金ガチャ前提のシステムになってないし、戦闘とかも割と頭使うし、装備とか考えたりね。あとあと、キャラはみんなかわいいし!」

「お前にとってはやはりそこが大事だろうな……」


 かわいいおにゃのこ好きな高清水には最後のポイントは重要だろう。


「それでキャラはみんな旧大日本帝国海軍の艦艇を擬人化した女の子なんだよー。艦娘って呼ばれてるね。全然軍艦とか知らないけど、キャラから逆に元ネタの艦を調べちゃったりしてね。なんか、昔のエピソードとか考えるといろいろ捗る、いろいろ!」


 鼻息荒く一気に語る高清水。頭上のおだんごもぶんぶん揺れている。


「よほど気に入ってるんだな。そんなに良いんだったら、俺も帰ったら見てみるかな」

「わたしも見てみます! なんか面白そうですねー」


 この時はまだ、この『艦これ』が日本中で大ヒットし、さらにはミレニアムブックスでの新たな戦いの火種となることなど、誰一人として知る由もなかった。



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【二〇一三年五月八日 一一時二五分

 女鹿市 仏門崎】


 日本海に角のように突き出ている女鹿半島の最先端に位置する、仏門崎。

 一面に広がる緑の芝生、青い海、青い空、そびえ立つ灯台……。

 いかにも美麗な観光地、といったスペックは備えているものの、平日昼前という微妙な時間も相まってか、人っ子一人いない寂しい雰囲気が醸し出されている。

 観光地らしく飲食店も立ち並んではいるが、やはり閑散とした様子である。

 その美しくも寂しい観光地の駐車場に、大平達を乗せたワゴン車が到着する。


「いやいやー、決戦の地には相応しいんじゃない、仏門崎」

「サイハテって感じですよねー」

「海鮮丼食べようよ海鮮丼!」

「高清水、お前はさっきドライブインでそば食ってたろう。あとだあと」


 おあずけを食らいふくれる高清水。



「さて、ついに最終決戦だな。この女鹿市対決の勝者が、今回の対決の勝者となる!」


 全員ワゴンから降り、大平が最後の対決のアナウンスを始める。


「もうここまできたら、あっさり決着がついてしまうのもなんだか味気ないので、三本勝負としようではないか。しかも、ガチンコ勝負になるタイトルばかりで!」

「おおー、熱い演出。やるね大平くん」


 相手方大将、亜也子もご満悦の様子である。



【二〇一三年五月八日 一一時三〇分

 女鹿市 仏門崎

 女鹿市対決 先鋒戦】


「さっそくだが、先鋒戦のタイトルは、これだ!」


 大平が取り出したのはPS2の黒いパッケージ、『ティンクルスタースプライツ 〜La Petite Princesse〜』。


「対戦シューティング、ティンクルスタースプライツの続編のPS2版だ。が、ここはあえて、これに収録されている初代のNEOGEO版で対決だ!」

「ようーし、スプライツといったら僕の出番だろう!」


 チーム・新屋家は新政が名乗りを上げる。昔取った杵柄ということだ。


「こちらは旭川くんでいこうと思うが……いいか?」

「えー! 千秋ちゃん出すのー!? 強すぎるでしょー」


 亜也子からブーイングが飛び出す。確かに旭川のシューターとしての腕はなかなかのものだ。だがそれも想定の範囲内だったのか、大平が調整に入る。


「いやいや、旭川くんはスプライツは初見。一方、新政は大の得意タイトルときたもんだ。むしろこっちが不利なくらいだと思うが?」

「んー、まあ確かに……。新政くん、自信のほどは?」

「千秋ちゃん、相手にとって不足なし! 腕がなるねえ」


 新政はよほど自信があるようだ。


「ふん。舐められたものね。『弾幕の黒メイド』こと旭川千秋と知っての発言なのかしら? 返り討ちにして差し上げますわ!」

「もう、泉さん! 勝手に声当てないでください! そもそもこっちはチャレンジャーの身ですよう……。というかなんですかその変な通り名は」

「そういう謙虚なところもかわいいんだからもうー」


 ぎゅむー。おだんご娘がメイドに抱きつく。こういうチャンスは逃さない高清水。旭川はされるがままである。


「よし、話がまとまったところで、さっそく準備するか」


 セラミックホワイトの薄型PS2とともに21インチ液晶モニターを引っ張り出す大平。


「モニターあるんじゃん! 最初っからそれ使ってたらよかったんじゃない!?」


 とついつい突っ込む亜也子。


「いやほら、PSoneのあのモニターでやるってのが雰囲気でるじゃない! さすがに二人同時プレイものであれは小さいからねー」

「まあ確かに。これはこれで最終決戦って感じでいいかもね」


 接続を完了し電源オン。ゲームディスクを読み込ませる。


「本来であれば特定キャラでクリアしないとNEOGEO版がプレイできないのですが、ここにすでにNEOGEO版解放済みのデータを用意してあります」

「準備良すぎじゃない!?」


 3分クッキングばりの用意の良さである。


「勝負はデフォルト設定の三本勝負。二本先取で勝ちだ」

「キャラ選択どうしようか? 性能差割とあると思うけど」

「そうな。おそらく経験と実力でどっこいどっこいだから、とかでいいんじゃない?」

「実質同キャラ対戦ね、おけーおけー」

「ショット、ボム、溜め撃ちレベル、連爆、エキストラ、ボス……」


 旭川のほうは完全に初見なので、マニュアルを読み込んでいるところだ。


「どう? 千秋ちゃん。頭に叩き込んだ?」

「も、もうちょっと……。結構システムが多いので大変ですよー。連爆してリバーサルしてエキストラアタック……、はい、行けます! あとはやらなきゃわからないです!」

「よし、やったれ! メイドさんとしての意地を見せるのだ!!」


 びしぃっ! 新政に指を指す大平。


「そこ、せめてメイドさんじゃなくてシューターって言ってくださいよ……」



 対戦モードキャラ選択画面。

 1P側旭川は主人公であるロードランを選択。一方、2P新政はメヴィウス親衛隊にカーソルを合わせて下を四回押して決定、ロードランのコピーであるダークランが選択される。


「さあさあ! キャラ性能は互角。経験が勝つか、シューターの底力が勝つか……。女鹿対決先鋒戦、レディー、ゴゥ!」



 ROUND1。

 登場する敵の数も少ないので、双方確実に連爆を決めていく。


「あーそうですか、おおきいのから倒せばうまいこと編隊ごと連爆できるんですねー」

「そうそう、それでパーフェクトって判定になるから、ゲームスピードが速くなって敵がどんどん出てくるって寸法さ」


 進むにつれてお互いに送り込む攻撃が多くなっていく。だがどちらも避けるなり連爆するなりで落ち着いて対処している。


「まあ千秋ちゃんほどのシューターならこれくらいじゃやられないか!」

「新政さんこれはなかなか楽しいですね。わたし、気に入りました!」


 そこで新政の敵編隊にオーブが登場する。連爆に巻き込むことでフィーバー発動。


「おっと新政がフィーバーか! 気をつけろー旭川くん」


 新政が攻撃の火の玉を大量に送り込む。それを連爆で撃ち返す旭川。そのリバーサル攻撃をさらに連爆に巻き込んでのボスアタック。


「え、うわわっ」


 必死に避ける旭川。新政はさらにレベル2溜め撃ちエキストラアタックで畳みかける。まともに喰らい、K.O.。


「うわっ、これはエグい!」

「は……! 一本取った!」

「すごいすごい新政くん! 千秋ちゃんを追いつめてるよ!」

「ああ亜也子さん、嬉しいけどあんまりほめられるとプレッシャーがー」


 賞賛されるととたんにミスってしまう人がいるが、新政はそういうタイプなのかもしれない。


「わたしも負けてばかりではいられません、新政さん。次です!」


 まだまだ旭川は気力を失っていない。逆にシューター魂が燃えているようだ。



 ROUND2。

 出だしは先程と変わらず、淡々と編隊を連爆していく。


「わかってきました。ポイントはとにかく、エキストラアタックでおじゃまキャラをいかに送り込むか、なんですねきっと」


 ここで旭川にオーブ出現。連爆してフィーバーが発動。


「なので勝負はここ! でかいのいきますよー!」


 フィーバー中の大連爆により新政に大量に送り込まれる攻撃。しかしその時、新政にもオーブが出現、発動。


「そうそう。そうなんだけど、これも厄介じゃないかな?」


 旭川の攻撃が連爆に巻き込まれる。高速リバーサルの火の玉の雨が旭川に降り注ぐ。


「えっ! はわわっ」


 速すぎて打ち返し切れず、被弾。さらに追撃のエキストラアタックで旭川K.O.。


「あんな速いのありですかー!」

「まあ運にも味方されたね。ナイスタイミングなフィーバーだったわ」

「やったね新政くん! これでリーチだよ!」


 ハイタッチするチーム・新屋家。


「すみませんてんちょうー。追い込まれちゃいました……」

「いいって! それよりも、なかなか楽しかっただろう? スプライツ」

「ですね! かわいい見た目とは裏腹に、かなり熱い対戦になりますね。しかもシューティングでなんて、これは……新感覚です!」

「発売当時は格ゲー全盛期だったからあんまり流行ってはいなかったけど、これはほんとに名作なんだよな。旭川くんなら気に入るだろうと思ったよ。……どう? 安くするよ?」

「売るのかよ!」

「こんな時に商売っ気出さないでくださいよー……でもまあ、たぶん買います」

「毎度あり!」



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