ポニテイヴナイツ 冬季限定版 2/2

【冬季限定版】


 常時ファミコンのつながっている一四型ブラウン管テレビのビデオ入力に、サターンのコンポジットケーブルを繋ぐ。

 電源タップに繋がれているファミコンのACアダプタを外し、代わりにサターンの電源ケーブルを繋ぐ。

 マルコンを繋ぎ、ソフトをCD-ROMドライブにセットする。


「これでいいですよね」

「さすが旭川くん。なんの説明もなしにゲーム機の接続をこなせるなんて」

「割とこういうのは得意ですから!」


 旭川は満足した様子で電源ボタンを押し込む。

 真っ黒な画面の真ん中から、四角い小さな板がくるくると回転しながら手前に向かってきて、その動きに合わせて視点が後ろに動いていく。後ろを向ききると、あっという間にセガサターンのロゴと背景が完成する。


「おっと、なんか凝ってますねサターン。荒いですけど」


 まずはソニックチームのロゴが表示される。


「まあ見ての通り、ソニックシリーズの開発チームが制作したんだ」

「そうなんですね。でもその割にナイツは知名度いまいちじゃないですか? 私はWiiでも出てたっていうことを知っているだけですかね」

「Wii版ねえ……」

「ん、Wii版はよくないんですか?」

「うーん、そんなに悪い気もしないんだけど、いまいちプレイした感覚がしっくりこないというか……。ま、いいか」


 話しているうちに、画面ではデモムービーが流れている。


「このソフトに関して何も説明していなかったけど、これは『クリスマスナイツ』。ナイツの体験版なんだけど、クリスマス仕様にしてみたり、おまけ要素が満載だったり、体験版にファンディスクの要素を追加したようなものかな」

「ほおお」

「今はクリスマス時期だからタイトルも『クリスマスナイツ』になっているし、ナイツ自身もサンタクロースっぽいカラーになっている。お正月だったら『ハッピーニューイヤーナイツ』、冬の時期なら『ウィンターナイツ』、それ以外の時期なら『ナイツショートバージョン』、と、プレイする時期によって少しずつ変化があるんだ」


 タイトル画面が表示される。大平の言う通り、タイトル表示がクリスマスナイツとなっている。


「ああ、今クリスマスだから赤いんですねナイツ。Wiiのパッケージ見た時は黒っぽかったですし」

「そうそう。まあさっそくプレイしてみようか」

「はーい」


 タイトルからメニュー画面に進み、CHRISTMAS DREAMを選択。二人のキャラクターが表示され、選択を促される。


「お……女の子と男の子、なんですかねこれ」

「そうだねえ」

「いやいや、なんかものすごい荒さなんですけど! 人って判断できるかどうか?」

「まあまあ、そのうち慣れるから」

「そうですかねえ……」


 旭川は女の子、クラリスを選択。画面内のクラリスは、夢の中へ落ちていく……。



【デュアライズ】


「さてさて、プレイしながら聞いて欲しい。まずは少し先にナイツが見えると思うので、それに向かって進むんだ」

「りょうかい。操作はアナログスティックでいいんですよね。あっ」


 何者かがクラリスから光の球のようなものを奪っていく。


「持ってかれた!」

「ここはクラリスの夢の世界で、今のは、この夢を悪夢にしようとしている者がクラリスの希望とか知性とかを奪っていったんだ。でもクラリスの周囲に一つだけ残っている球があるでしょう。それが勇気のイデア……あ、その球はイデアっていう名前がついているんだ。その勇気のイデアを使って、ナイツと同化して夢の世界を守る。それがこのゲームの目的だ」

「それはいい話ですね! がんばります」


 クラリスがナイツに近づくと、ナイツは静かに手を差し伸べる。それに触れると、宙に浮き回転しながらナイツとクラリスが同化する。


「おお……なんか芸が細かいですね」

「よし、じゃあこれからイデアを奪還していくんだ。基本的には右に進んでいけばいい。途中にある、チップと呼ばれる金色の球とか鈴とかを取ったり、リングをくぐったりして進むんだ。連続で取ったりくぐったりすれば、リンク数が表示されて高得点になる」

「はいー」


 ナイツがゆったりと飛んでいく。チップが目の前に現れるが、少し位置がずれていたのか、素通りしてしまう。


「ああ、なかなか思い通りにいかないですね」

「慣れるまではなかなかね。取り逃したら、旋回して取りに行くといいよ」

「そうしましょう」


 ナイツが小さく旋回し、取り逃したチップをゲットする。


「よしよし。続けていきますよー」


 さらに先に進むと、今度はたくさんのチップが円形に並べられている。


「こんなたくさん取るの大変ですよー」

「そういう時は、チップの周りを回転してみるんだ」

「こうですかね」


 ナイツがチップの周囲を大きく回転すると、描いた軌跡が光り、チップが吸収される。


「おお! 吸い込んだ!」

「そう、パラループというこのテクニックで、チップを吸収したり、敵を倒したりできるんだ。Aボタンを押してダッシュしながらやれば、より大きなパラループを作ることもできるよ」

「へええー、これは楽しいですね!」


 ナイツはくるくると何度もパラループを作っている。

 ひとしきり練習したのち、再び飛んでいくナイツ。するとその先には、上にクリスマスツリーが乗っている大きな球体が現れる。ナイツが球体に飛び込むと、ゲージが表示され、半分くらいたまった表示になる。


「何ですかこれ」

「これが、イデアを取り込んでいるイデアキャプチャーだよ。チップを20個持ってくることで、イデアを取り戻すことができる」

「じゃあ、まだたくさん集めてこないとですね」



【イデア】


 ナイツがさらなるチップを求めて飛び続けると、スタート地点に戻ってくる。


「あれ、最初のとこですか」

「そうそう。基本的には、イデアキャプチャーからイデアを取り戻してスタート地点に戻ってくるまでのルートがある。そのルートを4ルート、ようするに4つのイデアを取り戻すのがこのステージでの目標だよ」

「なるほど、イデアを取り戻さないとこのルートは終わらないのですか」

「そういうこと」


 再度スタート地点から進み、順調にチップを集めていくナイツ。


「あ、なんかチップ数の表示の色変わってるし、いけるのかな?」


 再びイデアキャプチャーに飛び込むと、ゲージが満タンになり、イデアが解放される。


「やった! 破壊しましたよ!」

「よし、じゃあこれからボーナスタイムだ。ここからの得点が2倍になるから、がんがんリンクしていくんだ」

「ハードル高いですねえ」


 まだぎこちない動きでチップや鈴を回収し、リングをくぐっていくナイツ。


「結構リンクがつながるタイミングがシビアですねー」

「そう、だから高得点を狙うなら、完全にアイテム配置とかダッシュのタイミングとかを覚えておかないと難しいね」

「なんかレースゲームのようですね」

「まさしくその通り! 制限時間なんかもあるしね」

「あ、もうあんまりない!」


 画面上部の残り時間表示が大きくなり、残時間が少ないことを教えている。ナイツはダッシュでスタート地点へ向かう。5、4、3、2、1……。


「あーっ!」


 時間が来ると、ナイツとクラリスの同化が解け、クラリスが独り残される。集めたチップが周りに飛び散る。


「間に合わなかった……」

「でもまだ大丈夫。その辺のチップを拾って、スタート地点に戻ろう。矢印方向に進めば戻れるよ」

「はーい」


 チップを集め始めるクラリス。すると程なくして、目覚まし時計が近づいてくる。


「旭川くん、あれにつかまると夢から覚めてゲームオーバーだ!」

「あわわ、それはいけない」


 チップ集めを中断し、目覚ましから逃げつつスタート地点を目指す。


「あ、もう戻ってこられましたね」

「割と近い位置だったんだね、惜しかったな」


 再度ナイツに触れると、得点とランクが表示される。今回はFランクのようだ。


「これで1ルート終わりだ」

「次はやられない……」


 復讐に燃える旭川に操られ、ナイツは次のルートへ進んでいく……。



【ナイトメア】


 その後、なんとか4つのイデアを取り戻した旭川ナイツ。


「いやーなんとかやれましたね」

「おつかれ! でもまだ気を抜くのは早いよ」


 画面が暗転し、まったく別のエリアに現れる。


「え? なんですかこれ」

「ナイトメアステージだね。ボスがいる」

「ボス!? 聞いてないです!」

「言ってないしー」


 子供みたいなやりとりを繰り広げる二人。


「まあとにかく、倒しておいでよ」

「そうですね、やりましょう! ……で、なにをどうすればいいんですかね」

「そこは、自分で見つけてもらおうかな」

「ええーてんちょうひどい! いじわる!」


と、旭川はふくれてしまう。


「そうやってみんな成長していくのさ……」


 しみじみと言う大平。


「もーいいです、意地でも倒してやるんだから」


 ふくれた顔のままナイツを操作し始める旭川。

 ステージには、頭だけ巨大な、龍のような生き物が飛んでいる。

 ナイツはそれをしっぽ側から追いかけるが、一向に追いつく気配がない。


「全然追いつかない……あ、そうか」


 旭川は気づいたようである。このステージは、陸上競技のトラックのように、ずっとぐるぐると回っているのだと。

 ナイツはすぐさま旋回し、逆方向に飛ぶ。まもなく、龍の頭が近づいてくる。さらにそのまま近づくと、ナイツは龍の頭にタッチする。


「お、これは……こうか!」


 タッチした状態でボタンを押すと、龍の頭がはじかれ、消滅する。ナイツはその反動で逆方向に飛んでいく。だがしかし、すぐに龍の胴体から大きな頭が生えてくる。


「トカゲのしっぽ切りならぬ頭切りかね」


 ドヤ顔で言う大平を旭川がキッとにらむ。が、すぐさま画面に目を戻す。


「よーしまだまだ」


 ナイツは復活した龍の頭へ再び触れ、はじき飛ばす。また頭が復活してくるので、近づくナイツ。まだ復活しきっていない状態で近づくと、ナイツがダメージを受けたような動作をし、『ー5』と表示される。


「早すぎるとダメか」


 再び頭側から回りこみ、慎重に頭をはじき飛ばす。少し離れ、復活しきる頃を見計らい、頭にタッチしはじき飛ばす。


「飲み込み早いね旭川くん……」

「ありがとうございます!」


 やはり根は素直な旭川である。

 繰り返すうちに、ついに胴体がなくなり頭だけになる龍。


「これで最後か!?」


 最後の頭をはじき飛ばすと、ゆったりとした音楽が流れ、龍が静かに散っていく。


「クリアですね!」

「さすがだね旭川くん!」

「ふへへ……」


 旭川の照れを表すかのように、ナイツがくるりくるりと回りながら飛んでいる。



【SEGA】


「さて、どうだった? 旭川くん」


 画面では、ハイスコアランキングが表示され、その後ろで先ほどの旭川のプレイのリプレイが流れている。


「これは楽しいです! 最初は操作感に慣れるのにいっぱいいっぱいでしたけど、慣れてしまえばもう自由自在ですね! 『バルーンファイト』とはまた違った飛ぶ楽しさですね」


と、マルコンをぐっと胸の前に持ってきて、笑顔で語る旭川。


「その操作感を表現するプログラムが、一人の天才プログラマーによって作られていて、まさに神業なんだとか。このサターン版はPS2に移植されているんだけど、プログラムの解読がほぼ不可能な状態だったらしく、結局移植に大勢の人を投入して2年もかかってしまったんだとか」

「天才も良し悪しですね……。まあ、こっちとしては楽しいものを出してくれているからいいんですけど」


と、複雑そうな表情で旭川は言う。


「あと、短時間でハイスコアを狙うなんて、やりこみたくなりますよーこれは。レースゲームみたいに自分でコースを攻略する楽しみもありますしね」

「おお! わかってるねえ旭川くん」


 自分のおすすめを気に入ってもらえ、大平は満足気である。


「えーと、ただ……」

「お? なんだい?」


 マルコンを膝に下ろし、それをじっと見つめながら旭川が続ける。


「たぶん一人でやってたら、何すればいいのか全くわからず、クソゲー認定していたかもしれませんね。店長の説明がないとさっぱりわからなそうです」

「まあね……。確かにその通りなんだ。だからこそ、中古で激安だったりするんだよな」

「もったいないですねー」

「あとはそのマルコンだよ」

「これですか?」


 旭川は、じっと見つめていたマルコンをひょいと持ち上げる。


「そう。それがあるのとないのとでは、操作感が雲泥の差だよ。体験版だとみんなマルコンなんて買わないだろうから、楽しさが伝わらない。そのもったいなさがやはりセガ!」

「面白いの作るんですけどねセガさん……」

「まあ、みんなそんなセガさんが好きなんだよな」


二人揃ってしみじみとしてしまう。



【クロージング】


 旭川は、先ほどまでプレイしていたサターンを大事そうに袋にしまっている。その様子を眺めながら大平が旭川に問いかける。


「ところで、誕生日はいつも祝日ってことは、一日まるまる空いているわけだよね?」

「そうですよ! うらやましいですか?」

「まあうらやましいといえばうらやましいけど……。そうじゃなくて、それだけ時間あるとどうやって過ごしているのかな、とね」

「そうですね、大体誰かと遊びに行ってますよ。今年は友達とゲーセン行ってその後飲みって感じですね」

「…………」


 大平は思案する。


(友達って、彼氏とかじゃないのか? というか、彼氏とかいないのか?)


「せっかく二十歳になるのでお酒を……って、てんちょうー?」


 旭川が話しかけるが、大平はぼんやりして気づかない様子。


(……いやいや、そこまで突っ込むのもどうだろうかね。店長として)


「おーい、もしもしー?」


 旭川が目の前で手を振ってみても、視線はどこか遠くの空間をさまよっている。


(いや、人として?)


「てんちょう! NECが新型ゲーム機を出すそうですよ! その名もPC-NX」

「何言ってるんだい旭川くんNECがそんな、まままさか! 出すわけないでしょー!? NXってPC-98NXかよって感じじゃない! いやでも……」


 明らかにうろたえる大平。だが口元はにやけており、少し嬉しそうにも見える。


「嘘ですよ」

「え?」

「だから嘘ですってー。すみません、店長ぼんやりしてるからコレ系が一番手っ取り早いかなって」

「旭川くん! これは人としてアカンよ! 俺がどれだけPCエンジン好きかってわかって……」

「人の話聞かない人が悪いのです」

「そうですね、すみません……」


 旭川の正論に、少ししょんぼりした様子で素直に謝る大平。しょんぼりしているのは、怒られたからというよりもむしろ、新機種情報がデマだと知った落胆の方が大きいに違いない。旭川は腕を組んで呆れ顔である。


「まあいいです。話は戻りますけど、まあ誕生日はそんな感じですが、クリスマスはせっかくなんでクリスマスナイツ三昧ですかねー」

「おう、是非とも堪能してみてくれ」

「どうせだから普通のナイツもください!」


と、調子の良いことを言い出す旭川に、渋い顔の大平。


「バカ言ってんじゃないよー、四八〇円と激安なんだから買ってって!」

「けちー。じゃあ今度クリスマスナイツでスコア勝負を挑みます。私が勝ったらナイツください!」

「うーん……、仕方ないな、受けて立とうじゃないか」


 勝負と聞いてまんざらでもない様子の大平。旭川の作戦勝ちのようである。


「やった! 店長あまあまですねー。そんな店長が私は好きですよ」


と、旭川は少し上目遣いに微笑む。


「なっ!? おおい、からかうんじゃないよー」


 口では軽くそう言うものの、少し目を逸らし頭をかく。


(好きって……まあそんな深い意味ないよな? 店長として!)


「へへ、じゃあ帰ります。プレゼント本当にありがとうございました!」


 元気よく頭を下げる旭川。ポニーテールが揺れる。


「おう、喜んでくれたようでなによりだ。雪すごそうだから気をつけて帰れよ」

「はーい! ではおつかれさまでしたー」

「お疲れー」


 旭川が、電源の切れた自動ドアを手で開け、元気に帰って行く。

 それを見送った大平は、シャッターも閉めず、すぐさま先ほど話題にのぼった四八〇円のナイツを木製の本棚から探し出し、コの字の中央に持って行き、開封する。


「……動作確認しないとね!」


 適当な言い訳を独りで済まし、カウンターから動作確認用Hiサターンを取り出してくるのであった。



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【蛍の光】


 大平が遊びモードに入ってしまったので、本日も営業はおしまい。

 またのお越しをお待ちしております。

 よいクリスマスを!



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