第3話 冷たい笑顔

私の名前は『粉雪』


長い間、入院している。


目を開けるとシーツやベット、壁と床、至る場所は白い。


個室にはテレビやパソコン、家電から家具まで揃っている。


そこでは言葉が絶えない。


私に好意を寄せる男の子と話すし、機械にしか興味がない子とパソコンを交え会話することもある。


泣いてばかりの子もいるし、怒っている老婆、笑ってばかりの紳士。


みんな私に語りかけてくる。


だからか私は自然と独り言を言っているようで、よく先生に叱られる。


「粉雪ちゃん、あまり独り言を言ってはダメだよ?じゃないと退院した後、大変だよ」って。


でも私は退院することはないと思う。


「粉雪ちゃんアイスの時間だよ?」


いつものように先生が問診もかねて、アイスとカルテを片手にやってくる。


「あら先生、ごきげんよう今日もいい子にしてたご褒美?」


「そうだとも、粉雪ちゃんが生きていることが医者として後見人として、何よりもご褒美だよ」


「モルモットじゃなくて?」


私はチラリとベットの脇に置いた、空になった薬の山を見る。


「延命のために必要なことなんだ。君のためなんだよ粉雪ちゃん」


「私が生きる意味はたった一つよ先生」


私は何度言ったか分からない言葉を繰り返す。


「私が生きる理由は先生がいつか持ってきてくれる●●を食べること」


「そうだったね...じゃあ召し上がれ。食べ終わったらナースコールを。改めて問診するからね?」


「えぇ」


先生は笑顔を浮かべて早々に退散する。


机の上に置かれたそれは、ピンク色のアイスが冷気を纏っていた。


シャーベット状でガラス容器に収まっている。


スプーンを持つ手が震える。


緊張する。


でもモタモタしてたらアイスは溶けてしまうから。


私は食べて、ヒンヤリする。


スプーンがカランと音をたてて床に落ちる。


私の中で溶け出すアイスの中身は若い女の人だった。


話してみると先生の同僚らしい、私に行われている研究に対して意見したらこうなったらしい。


「また違った...先生、これで何人目?」


つい愚痴がこぼれてしまう。


思い返すと、私は病気で一度死にかけ沢山の犠牲の上で、生きることが出来た。


でも最初、パパを含め大切な人達がいないと知って生きる意味がないことを知った。


それで何度、自殺を試みたか分からない。


「死んじゃダメだ!粉雪ちゃん!!」


ある日、屋上から飛び降りようとフェンスを登ろうとしたら声が、頭の中で響いたのが最初。


空耳かと思って、もう一度。


同じセリフが返ってくる。


声の主は私が好きだった男の子だった。


私は気になって先生に聞いた。


先生は迷った様子もなく淡々と語った「君の病気を治すために使われた臓器の提供者じゃないかな?移植後の変化はよくあるんだ」と。


さらに先生はこう付け足した。


「粉雪ちゃん、今後...。自殺しないと誓うなら君の会いたい人に会わせてあげるよ。もっとも何時君に会わせるかは私が決めるし、会いたい人以外と会ってもらう事もあるかもしれないし、先生が個人的にしてる研究の手伝いもお願いするかも。それでも良いならいつか必ず会わせてあげる」


私はその言葉を聞いて、笑顔を浮かべた。

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冷たい殺人鬼 絶望&織田 @hayase

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