第30話「魔剣の勇者」




「おい! そこのお前! その剣は俺の物のはずなんだ! なのに何でお前がそれを持ってやがる!」


 俺は本来俺が貰うはずだった伝説剣エクス・カリバーを持つ「キョウヤ」と呼ばれた男に言い寄ると、側にくっついていた美少女二人がしゃしゃり出てきた。


「ちょっと、アンタ! いきなりキョウヤに何の言いがかりよ! キョウヤはこの前もアクセルの街で最低の冒険者に絡まれて奪われた魔剣を取り戻したばっかりなんだからね!」

「そうよ、そうよ! 魔剣を買い戻すお金を貯めるの本当に大変だったんだから! それなのに、新しく手に入った神器の剣『伝説剣エクス・カリバー』をキョウヤから奪うつもり!」


 すると、今度は突然の事に理解が追いついていない、るりりんが俺に説明を求めた。


「マサヤ、一体どうしたんですか? 何でその人の持つ剣がマサヤの物なんですか?」

「おま! るりりん! お前には最初に会った時に俺がこの『トライアル』に俺の武器を求めてやってきたのを説明しただろうが!」

「ああ、そういえばマサヤは異世界から来たんでしたよね。ふーん、へぇー……」


 そう言う、るりりんの目は全く俺の話を信じていなかった。

 ぐぁあああああああああああああ! こいつ、まだ俺の話をただの設定だとおもっていやがるぅうううううううううう!

 しかし、その『異世界』という単語に意外な人物が反応を示した。


「異世界? まさか、君もアクア様に導かれてこの世界に来た勇者だというのか!」


 その人物は俺のエクス・カリバーを持つ張本人の『キョウヤ』と呼ばれている奴だった。


「その言い方……まさか、お前も?」

「ああ、僕の名前は『ミツルギ キョウヤ』君と同じ女神アクア様からこの世界を救って欲しいと頼まれた魔剣の勇者だ」


 事情を説明する事、約十分……


「つまり、君は転生した時に剣をなくしてしまってこの町に来たんだね?」

「お前、俺の話をちゃんと聞いていた? 俺は剣をなくしたんじゃなくて、あの駄女神が剣を渡し忘れたんだよ! だから、本来その剣は俺の物なんだよ。分かったら俺に返せ!」

「断る」

「なっ!」


 俺が大まかな内容を説明すると、なんとイケメン野郎はそれを断りやがった。


「だって、君の話が本当だという証拠が何処にも無いじゃないか? 君だって僕と同じ立場だったら持っていた神器を渡せって言われても渡せないだろう?」

「てめえ! 俺の話が本当なのは同じ異世界から来たって時点で作り話じゃないのは分かるだろう!」

「ああ、だけど、それは君が僕と同じ日本人であるだけでこのエクス・カリバーが君の物だと言う保障はどこにも無い」

「なるほど、そこまで言うのならこれを見ろ! これがその証拠だよ!」


 そう言うと、俺はミツルギに女神アクアが俺に寄越した手紙を見せた。それは、俺がこの世界に来て剣が無いことに気づいたときに空から降ってきたあの手紙だ。そこにはちゃんと、剣が俺のものでありトライアルの町に剣を間違えて送った旨が書いてある。


「ふむ、だけど、この手紙は証拠にはならないな。だって、この手紙でさえ君が僕からこの剣を奪うために偽造した可能性がある」

「てめええ! そこまで疑うか? 一体、俺に何か恨みでもあるのか?」

「いいや、ただ。僕は冒険者を信用していないだけさ」


 その言葉を聞いて、るりりんがミツルギに質問をした。


「随分と冒険者を嫌っているようですが過去に何かあったんですか?」

「実は……他の街で冒険者に卑怯な手で魔剣を奪われた事があってね。それ以来、僕は職業が冒険者の見苦しい顔をした男には心底警戒を怠らないようにしているんだ」

「てめえコラ! それは俺に喧嘩を売っているのか! 俺の顔が見苦しいって意味か? いいだろう! その喧嘩買ってやるよ! 勝負しろゴラ! 俺が勝ったらその魔剣も俺のエクス・カリバーも返してもらうからな!」

「ふっ……いいだろう。だけど、僕がこの剣を賭ける以上、君も何かをかけてくれるのかな?」

「ああ? 賭けるもの? んじゃあ、俺が負けたらこの食べかけのスルメイカをやるよ」

「いらないよ! なんでそれで神器である魔剣と釣り合うって思ったわけ? しかも、食べかけじゃん!」

「ああ? じゃあ、お前は俺に何を賭けて欲しいんだよ」


 すると、ミツルギは俺の仲間を一瞥してにやりと笑みを浮かべて提案した。


「そうだね……実は僕達のパーティーは優秀なプリーストを探しているんだ。ちょうどいいところに君の仲間はこの町で一番腕の優秀なアークプリーストらしいね? しかも、プリーストだけじゃなく、アークウィザードにクルセイダーまでいる。君では彼女達も実力を生かせないんじゃないのかな? だったら、僕のパーティーと一緒になって魔王討伐に貢献した方が世の中のためになると僕は確信している。どうだろう、君が負けたら彼女達が僕のパーティーに入るというのは?」

「なっ! ちょっと、アンタ何をいい加減な事を!」

「そうです! 私達が優秀なのは認めますが、そんな私達の意見を無視するような賭けを!」

「そうだ! 確かにこの男はただの冒険者だが、私達は別に他のパーティーになど!」

「いいよ」


「「「「え!」」」」


 俺はその条件を直ぐに了承した。

 何故か、ミツルギとるりりん達は驚いているが、俺からしたら勝てばイケメンをボコせた上に剣も戻ってくるし、負けてもこいつらというお荷物がいなくなるだけでなんのデメリットも存在しない。むしろ、あいつらが俺以外の奴とパーティーを組んで上手くいくなんてありえないしな。どうせ、直ぐに追い出されて俺のところに戻ってくるさ。

 とりあえず、それよりも今は目の前のイケメンをボコす方が先だ!


「先手必勝! いくぜアララギ!」

「くそ、不意打ち! てか、僕はそんなひねくれ系の吸血鬼のような名前じゃない! 僕の名前はミツルギだ!」


 律儀にツッコミを返してくるミツルギに向かって俺は振り上げた剣を奴の喉下に突き刺し――んなっ!


「ふ、防いだ……だと!」

「ふっ、生憎なことに卑怯な冒険者との決闘には慣れていてね……君が不意打ちをするのも想定内さ!」


 すると、ミツルギは俺の剣を魔剣で弾くと、距離を取ってから、何故か左手に持っていたエクス・カリバーを地面に突き刺した。


「冒険者の君相手に剣二本は大人気ないからね……ハンデだ。僕はこの魔剣だけで君と戦――」

「今だ!」


 ミツルギが言い終わる前に俺は再び飛びかかって奇襲を仕掛けた。しかし、その攻撃も読まれていたようで簡単にミツルギにかわされてしまう。畜生! 俺とアイツじゃステータスに圧倒的な差がありやがる!


「甘いね。これなら、前に僕と戦った冒険者の彼の方がよっぽど強敵だったよ」

「え、何お前……俺以外の冒険者とも決闘なんてしてるの? お前、かりにもソードマスターが最弱職の冒険者をいじめて楽しいの?

 てか、お前が持っていたエクス・カリバーは俺以外には抜けないはずなのになんでお前が持っていたんだ? おい、ミミズギ! お前エクス・カリバーを何処でどうやって手に入れやがった?」

「だから、僕はそんな公園の岩を避けた地面にいる虫のような名前じゃない! 僕の名前はミツルギだ! あの剣はこの町の領主の庭に突き刺さっていたのを僕が抜いたんだよ。ちょうど、この町の領主に挨拶しててね。ついでに庭に振って来て誰も抜けない剣を取り除けないか? って依頼されたんだ。剣は抜いたらくれるって言うしね」


 なるほど、しかし、俺以外に抜けないはずの剣をあいつが抜いただと?

 すると、その疑問を取り巻きのふわふわ系のフィオと言う子とスレンダーな体型のクレメアという少女達が口を滑らしてくれた。


「そうよそうよ! キョウヤは腕力で抜けなかったあの剣を魔剣で地面ごと、くり抜くって言う荒業で掘り出したんだから!」

「あの後、剣にへばりついた地面の跡を魔剣でそり落とす作業には時間がかかったね……」

「あ! ちょっと、フィオ! クレメア!」


 なるほど、なるほど……つまり、こいつは正当な方法でエクス・カリバーを手に入れたわけじゃないのか。


「てめえ! やっぱり、それ俺が貰うはずだった剣じゃねえか!」

「う、うるさい! どんな手段であれ、あれを最初に手に入れたのは僕なんだから、あの剣も僕の物だ!」


 すると、次の瞬間目の前にいたミツルギの姿がブレて消えた。


「は、早っ! 消え……って、こういう時は! 大抵が真後ろっ!」


 奴が驚異的なスピードで消えると同時に俺はほぼ直感で振り上げた剣を真後ろに向かってスイングする。すると、ちょうどそこに驚いたミツルギの顔があって――


「驚いた。だけど、まだ甘いな!」


 ミツルギはさらに驚異的な反応スピードで俺の剣を魔剣で木っ端微塵に砕き折った。

 

「お、折れたああああああああああああああああ!」


 ぐぁああああ! この剣高かったのに!


「驚いている余裕が今の君にあるのかな?」

「しまっ――」



 そして、俺は振り下ろされたミツルギの魔剣によって頭を強打されて意識を失った。


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