第29話「野良ニンジン」
「おらぁああああああああ!」
その日、俺の剣は冴えていた。
「どらぁああああああああああ!」
そう、襲い掛かる敵を切っては倒し、切っては倒すの繰り返し、まさに絶好調って奴だ。
「りゃあああああああああ! おし! これで20体目! こんな奴ら俺の敵じゃないぜええええ!」
しかし、そんな俺にるりりんが水をさした。
「マサヤ、流石の私もニンジン程度の相手をマサヤが狩れないと流石に困るのですが……」
「分かっているよ!」
そう、俺がさっきから切って切って切って倒しまくっているのはニンジンだった。
野良ニンジン。ふざけたネーミングどおりこいつは超がつくほどの雑魚モンスターだ。見た目は普通のニンジンが長く伸ばした根を使って二足歩行するマンドレイクみたいなもんだ。
戦闘能力は無く攻撃手段は体全体のニンジンをドリルのように回転させて突っ込んでくるだけなのだが、いかんせん所詮はただのニンジンなのでドリルアタックを受けてもちょっと痛いくらいで耐えられない事も無い。そして、ここが一番ウザイのだがこいつらはとにかく数が多い。だいたい野良ニンジンが1本いればあと30本はいると言われるのが当たり前で雑草のように繁殖するため、この町の周辺では定期的に野良ニンジンの討伐クエストがあるのだ。
「アダダダダダ! 痛い! イタイイタイ! 助けてマサヤさーん!」
すると、近くでアプリが大量の野良ニンジンに襲われニンジンドリルで体中をチクチクと攻撃されていた。
「アプリ、何してるんだ! お前、数匹程度ならリフレクターで防げるから楽勝とか言ってたじゃないか」
「痛い痛い! だって! 野良ニンジンって一匹の討伐料が少ないから餌の肥料をばら撒いて一気に捕まえようとしたのよおおおお」
「それで、思ったより数が来てしまって処理できなくなったみたいですね」
大量の野良ニンジンにフルボッコにされるアプリを尻目に手に持った網でニンジンを捕獲する、るりりんが俺に説明してくれた。
「ああもう! アプリ」
「まかせろ! 『デコイ』」
俺が合図を出すとアプリはそれに答えて『デコイ』を発動させてマリアにまとわり付いていた野良ニンジンを一人でひきつけた。俺はその隙に残ったマリアにまとわり付くニンジン達を切り捨ててマリアをニンジンの群から助け出した。
「うわぁああああん! マサヤさーん、痛かったよぉおおお! 怖かったよおおおお! だすけでくれてありがとうございまあああす!」
「おおーよしよし……マリア、これに懲りたらもう二度と俺の指示を無視して勝手に突っ込むんじゃねえぞ?」
ニンジンの群に襲われてよっぽど怖かったのか、泣き叫んで堂々と俺に抱きついてくるマリアに俺は押し付けられる胸の感触に照れつつも、マリアの頭をなでで彼女を落ち着かせた。
「むぅ……『プロージョン!』」
すると、何故かそれを不快そうな目で見ていたるりりんが――
「ああ! ま、マサヤ! 助けてください! わ、私にも大量の野良ニンジンが! この数では我が必殺の炸裂魔法も放つ隙がありません!」
「いや、お前さっき自ら何も無い場所に炸裂魔法放って、わざと野良ニンジンを引き寄せたよな! 何でそんな炸裂魔法の無駄遣いしてるんだよ!」
「そ、そそそ、そんな事よりも早く助けてくださ……くぁ! 痛い! イタイイタイ! こ、このニンジン風税がこの私の体のアチコチを先っちょでツンツンっと! アタタタタ! ドリルが! ドリルがぁあああ! ちょ、マサヤ! 本当に助けてください! このままでは私がお嫁にいけない体にされてしまいます!」
「あの、ニンジンドリルって見た目は滑稽な攻撃だけどニンジンの集団でやられると意外といたいのよね」
「……たっく、しかたねぇな」
どうやら、本当にるりりんも限界みたいなので助けるとするか。しかし、何でこいつらは毎回余裕で勝てそうなモンスターにこうも苦戦するんだ?
「アプリ……頼む」
「ちょ! 私はまだ他の野良ニンジンも引き付けているんだが……ああもう! マサヤ、こっちのニンジンも処理してくれるんだろうな? 『デコイ!』」
すると、るりりんの方にいたニンジンもアプリの方に引き付けられ、俺がマリアの時と同様に残ったニンジンを切りつけて、るりりんをニンジンの群から開放した。
「ふぅ……助かりました。もう少しで新しい自分に目覚める所でしたよ。助けてくれたマサヤへのお礼に抱きついてあげましょう」
「お、おい! 別にそんなのは期待して――」
問答無用に抱きついてくる、るりりんに俺は一瞬動揺して顔を赤く染めたが、それも直ぐに衣服を通して伝わってくる胸の感触がマリアの時と全く違う事に気付いて直ぐに俺は真顔に戻った。
「…………」
「おい、マサヤ? 何か言いたいことがあるのならハッキリ言ったらどうですか? 紅魔族は頭が良いのです……だから、マサヤの考えている事も我が炸裂魔法で答えて差し上げましょう」
「……る、るりりんってアレだよね。収穫がまだ早いと言うか――」
「この! 『プロージョ――』」
「るりりん、止めなさいよ! 別にるりりんが私より胸が小さいというか、もうほぼ無いに等しいくらいに絶望的なのは知っているんだから、今更そんな事で怒っても仕方ないでしょ!」
「ちょ、マリア! 余計な刺激を与えるな! リアルにるりりんが爆発するぞ!」
俺とマリアがモンスターを無視して、必死にるりりんを抑えると、後ろからアプリの悲鳴に近い叫び声が聞えてきた。
「お、おい! お前達そんなところでモメてないでいい加減に私を助けてくれないか! 流石の私でも、この量のニンジン達を捌き切るのはむ、むずか……あぁああああああああああ!」
俺は悲鳴を上げながらも何処か嬉しそうな声を上げるアプリを見て、るりりんに指示を出す。
「るりりん、アプリにニンジンが集中している今がチャンスだ。やれ」
「分かりました『プロージョン!』」
「う、うぁあああああああああああああああああああああああああああああんんっ!」
ニンジン達と一緒に炸裂魔法を浴びるアプリの顔は何処となく充実していた。
「アイツ……ドSって言うわりには隠れMだよな」
「もう! お前達はどうしているもクエストの途中でふざけるんだ! いつもいつも何故か最終的に盾の私が酷い目に合うじゃないか!」
「悪い悪い。てか、お前も大概はクエストで焦らしてモンスターを倒さないから戦いがジリ貧になるんだが、それは自覚しているよな?」
あの後、俺達は見事炸裂魔法の衝撃を受け流したアプリにヒールをかけてクエストの完了を報告するためにギルドへと向かっていた。すると、向かい側から二人の美少女を連れたやけにイケメンで良い装備をした男の三人組パーティーが歩いてきた。
「ッチ、イケメンで美少女を二人も連れて人生の勝ち組気取りか? このヤロー……」
「マサヤ、何を見ず知らずの冒険者パーティーにケンカ売ろうとしているのですか?」
「そうよ。それにアンタだってこんな美少女を三人も引き連れているんだから人のことは言えないんじゃないいかしら?」
「そうだな。相手は二人に対し、こちらは三人だ。お前も自身を持ってもいいと思うぞ?」
得意そうに言う、るりりんとマリアにアプリの三人をゆっくり見て俺は舌打ちをした。
「…………ッチ!」
「「「はぁ!」」」
すると、すれ違う途中でその冒険者達の話し声が聞こえてきた。
「キョウヤ~無事に魔剣が戻ってよかったね~」
「本当よね! それに新しい剣も手に入ったじゃない♪」
「ああ! やっぱり僕こそが選ばれた勇者だったんだ! 魔剣グラム。そして、新しく手に入った伝説剣エクス・カリバー! これで、僕が魔王を倒して新の勇者だとあの人に認めてもらうんだ!」
ん? 今なんて言った……伝説剣エクス・カリバー? 何か聞き覚えのあるような武器の名が――
その瞬間、俺はすっかり忘れていたあの駄女神からもらうはずだった武器の名前を思い出し、何故かすれ違ったそいつの手に俺の伝説剣エクス・カリバーが握られていた。
「ああああああああああああああああああああ! そうだ思い出した! 何しにこの町に来たんだよ! 伝説剣エクス・カリバーを探すためじゃねぇえかぁああああああああああああ! てか、何でてめぇえがそれを持ってやがるイケメンハーレム野朗!」
「な、何だ君は……?」
それが俺と魔剣の勇者、
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