第29話 商談をしました

 東方大陸は移動手段が特殊である。それぞれの街にはゲートと呼ばれる長方形のドア枠のような形の転移装置があり、それを使い別の都市へと移動する。これは外から来た人達も同様である。


 ゲートという移動手段があるなら、飛行機なんていらないなんて思ったが、防衛のため、飛行機で孤島に行き、そこから転移するという手段を取っているらしい。


 飛行機を降り空港を出ると、そこは大広間のような場所であった。また、周囲を見渡すと多くのゲートが見られ係りの人が誘導をしていた。中央には大きな看板があり、どのゲートが何処に繋がっているのかの説明が書かれている。学区、商業区、工業区、農業区等、目的に応じて分かれており、その先にさらに細かくゲートが分かれているようだ。


 俺の目的は飛空艇の調達なので、工業区に行くことにした。しかし、某オタクの祭典とまではいかないが溢れんばかりの人混みで、目的地に辿り着くのに一時間はかかった。


 というわけで、今、俺達は工業区の造船区域に居る。


「さて、ここで作ってくれる人を探すわけなんだが……」


 俺は辺りを見回してそう呟いた。至る所に看板があり、め組工房はこちらだとか、船をご入り用ならシンカイ工房等の謳い文句が書かれている。


「しっかし、たくさんありますねー。これじゃあ、何処がいいか分かりませんね。一応、あの冊子にはそれぞれの特徴が書かれていましたけど、どれも似たり寄ったりでしたしね」


 あの冊子こと東方大陸のすゝめには、それぞれの工房でどんな技術でどんな物を作っているのかざっくり書いてあった。ただ、そんな専門用語で説明されていてもさっぱりではあったが。


「そう言えば、あれがあったわ」


「あれってなんですか?」


 竜王のところで特訓を終了したときに、手紙のようなものを貰ったのを思い出した。それを手に近くにいた係りの人に聞いてみた。


「すいません。紹介されてきたのですが……」


「はい、それでは見せていただいてもよろしいですか?」


 そう言われ俺は係りの人に手紙を渡した。


「竜王様からの紹介ですね。それではご案内します」


 手紙を見るや否や、その係りの人は何かを悟ったようで、俺達を目的の場所へと案内してくれた。




――――――




「こちらになります」


 案内されたのは職員用の部屋のさらに奥の方で、他のゲートとは明らかに違う場所にあり、関係者以外立ち入り禁止と書かれた看板があるさらに奥にその場所はあった。


 俺達は促されるままにそのゲートを潜り、先へと進んだ。すると、そこは一畳ほどの場所で目の前に二メートル程の高さの扉があるだけだった。


「ここに入ればいいのか?」


「恐らくそうだと思いますよ?」


 俺はお下げ髪と顔を見合わせ、少し不安を覚えながらもその扉を開けた。


 そこは事務室の様な場所で、十人位のスーツ姿の人達が机に向かって作業をしていた。


「ん? お客さんとは珍しいね」


 どうしようかと入り口で考えていると、一人の男性に話しかけられた。


「えっと、職員の人にこの手紙を見せたらここを案内されたんですが……」


 しどろもどろになりつつ、俺はその人に手紙を渡した。


「ん? あー、そうだね。じゃあ、こっちに来て」


 その男性は納得した様子で頷き、俺達に着いて来るように言った。


 そのまま付いて行くと、そこには他の人と明らかに違う雰囲気を漂わせている男がいた。


「タケル様、竜王様の紹介のお客様がいらしています」


 この人がタケル様らしい。黒目、黒の短髪でパッとみ二十代のベンチャー企業のやり手社長の優男風だが、竜王にも負けないくらいの存在感があった。


「ああ、分かった。引き継ぐから戻っていいよ」


 そう言って案内してきてくれた人を下がらせ、俺達に向き直った。


「初めまして。マギクラフト工房の社長をやってるタケル・イグチです」


「これはご丁寧に。初めまして、私はユネハと言います。情報屋をやってます」


「初めまして、冒険者のショウです」


「ショウさんとユネハさんですね。ふむ、ショウさんが今回の依頼者ですね。では、詳しい話を聞きますのでこちらにどうぞ」


 そう言われ、部屋の隅にある仕切りで区切られた商談スペースに案内された。


「さて、此方の手紙を拝見させていただきましたが、時空神殿までの移動手段をご所望ということで宜しいですか?」


「はい」


「そうですか。しかし、現状では材料が不足しておりまして、作ることが出来ません。また、その材料も非常に貴重なものなので、次にいつ入荷できるのか分からない状態なんです」


 申し訳なさそうに語られ、無理なのかとも思ったが、材料がないなら自分で調達すればいいのではと考えた。


「えっと、足りない材料って何ですか? 何ならこちらで用意しますが」


「え? それは少し大変だと思いますよ? 足りない素材と言うのは、神木、神鋼、神繊維ですから」


「そんなもの使うんですか!」


 材料を聞いた途端、お下げ髪が大声を上げ、愕然としていた。


 そんな彼女に俺は何となしにその凄さを尋ねた。


「なっ! いいですか。今言われた三つは国宝級の物なんですよ。

 まず、神木とは南方大陸のエルフの国にある世界樹のことです。この木はエルフの信仰対象になっていて、切ったりしたら全エルフを敵に回します。

 次に神鋼ですが、これも南方大陸で、ドワーフの国にその製造法があり国家機密となっています。知っている者は勿論、作り手も殆どいません。

 最後に神繊維ですが、これは西方大陸で唯一生息を確認されたことのあるキューナと呼ばれる動物の毛皮から作られます。しかし、この動物は極めて臆病で家畜化出来ず、また生息域も不明でその希少性から幻の糸とも呼ばれているんです。

 なので、これら三つを揃えるのは至難の業だと言えます。しかも、飛空艇にする量となれば絶望的でしょう」


 俺はお下げ髪の話になるほどと頷き、他に手段はないのかを聞いてみた。すると、タケルさんから意外な答えが返って来た。


「ないことは無いですね。通常の素材に神力を順応させた代用品を使います。代用品と言ってもほぼ同じ性能にはなると思いますよ。ただ、量が量なので並大抵の神力では無理ですが……」


「じゃあ、それで行きましょう」


「えっ?」


 俺の言葉を聞いたタケルさんは面を食らっていた。しかし直ぐに気を取り戻した。


「そうですか。では、製作費として二百億センになります。詳しい詳細は後日お渡しします。支払ですが、前金として一割頂きますが宜しいですか?」


 俺は頷き指定された金額をストレージから出した。


 いつの間にそんなに稼いだとか言われそうだが、竜の里での二週間でSランクオーバーやさらにその上の伝説級のモンスターを結構狩っていて、その素材を王都のギルドで買い取って貰ったら全部で約一兆センになった。売る方も売る方だが、それだけの額を一括で支払うギルドにも驚いたものだ。一体どこからそんな金が出てくるのやら。


「確かに。では、神力を込めて頂く素材がある場所にご案内いたします」


 そうやって連れてこられたのはだだっ広い倉庫だった。そこには木や鉄鋼などが山のように積み上げられていた。


「ここにあるのが、飛空艇一隻に使う材料です。これら全てに神力を馴染ませてください」


「……はい」


 言ってしまった以上やるしかないのだが、目の前に広がる山の数々を見回すと、完全に早まったとしか思えなかった。


「では、終わりましたらこちらの機械でお呼び下さい。ボタンを押せば私の持っている物に繋がりますので」


 そう言って、俺に小型の無線のようなものを手渡すと、倉庫から出ていった。


「ファッ、ファイトです! 私も陰ながら応援していますよ!」


 そう言うとお下げ髪はタケルさんの後を追うように走っていった。


「はあ、やる気でねぇ」


 俺は現実逃避したくなる思いではあったが、なんとか鼓舞して作業に取り掛かった。

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