第19話 謁見しました

 王都に着いてからあっという間に一週間が過ぎ、王に謁見する日となった。その間、飛竜に会ったり、オークを狩ったり、王都食べ歩きをしたり、十分王都を満喫した。ただ今回の王都での生活で、浪費癖は何とかしないと思ったのだが、稼げるしいいかとも思ってしまった。まあ、概ね順調に過ごしていたわけだ。


 そうして今俺はアズマさんとお下げ髪と一緒に、謁見の間の扉の前にいる。


「ああ、面倒臭い」


「ショウさんはいつもいつも、しょうがないですね」


 俺の吐き捨てるような呟きに、お下げ髪がため息交じりに突っ込んできた。


「それでは皆様、宜しいでしょうか? 王の御前ではくれぐれも粗相のないようにお願い致します」


 俺とお下げ髪がブツクサと言い合っていると、扉の前にいる衛兵から声を掛けられた。


「はあ、それじゃあ行きますか」


 まあ、ここでごねても仕方がないので、諦めて行くことにする。そんな俺を見て、お下げ髪は呆れた表情で、アズマさんは覚悟は決まったか、といった表情で見てきた。そうして、俺達三人は衛兵に促され、謁見の間へと入っていった。




――――――




 謁見の間に入ると、そこはだだっ広い空間で、正面には王座らしき空席があり、その脇には眼鏡を掛け黒いローブを着た宰相風の男や白い鎧を身に纏った騎士団長風の男が控えており、部屋の脇には大臣等の高官らしき人達が並んでいた。


「これより国王が参られる。全員控えよ!」


 俺達が部屋の入り部屋の中央辺りまで歩くと、騎士団長っぽい人が叫んだ。その声を聞くと、アズマさんやお下げ髪を含め全員が膝をつき頭を下げていたので、俺もそれに倣った。すると、コツコツという足音が聞こえ、誰かが席についたのが分かった。


「皆の者、面を上げよ」


 渋い男性の声が部屋に響き渡った。その声で隣にいた二人が立ったので、俺も立ち上がった。ふと、王座の方を見てみると、そこには白髪ですらっとしつつも鍛え上げられているであろう肉体を持った、何らかの達人のような雰囲気を漂わせた人物がいた。


「ふむ、其方等が今回の立役者である冒険者か。名をなんと申す?」


 何か上から目線だな。まあ、公式の場だし、そうしないといけないのかもしれないが、もう少しどうにかならないものだろうか。不満気な表情をしていると、お下げ髪に足を踏まれた。


「おまっ、何すんだよ」


 大声も出せないので、囁くように抗議したが、お下げ髪は知りませんといった表情で、国王へ返事をしていた。


「ユネハと申します」


「アズマと申します」


「……、ショウと申します」


 まあ、答えないのも何なので、二人に倣って返答をした。


「そうか。私はレヴィーユ王国第五十三代国王ガイアス=ケー=レヴィーユである。今回のゴブリンルーラーの件、大儀であった。褒賞などの詳しいことはスーデン、頼んだぞ」


 そう言うと、国王の横に居た宰相っぽい人が話を引き継いだ。


「畏まりました。僭越ながら、宰相である私スーデンからご説明致します。まず、今回のゴブリンルーラー討伐の件で、貴方達のランクBへの昇格を正式に決定致しました。後日、王都の冒険者ギルドでギルドカードの更新を行ってください。他のギルドで更新する場合は、情報が行き届かずに昇格出来ないことがありますので、ご注意ください。また、褒賞ですが、三名それぞれに百万センと名誉騎士爵を授けることとなりました」


 それを聞いた二人は驚いたような表情をしていたが、俺にはいまいちピンと来なかった。まあ、またお金が溜まって良かったぐらいの感覚だ。ただ、俺は気になったので、お下げ髪を引っ張って尋ねた。


「名誉騎士爵ってなんだ」


「ちょっと、髪を引っ張らないでください。……もう。名誉騎士爵っていうのは、今回みたいに大きな手柄を立てた人が得られる爵位で、階級的には準男爵相当です。まあ、だからと言って、税を納める必要もなく国に仕える必要もないので、名前だけの爵位ですね」


 お下げ髪は恨めしそうに此方を見ながら、しかし、俺の質問にしっかりと答えてくれた。


「それでは、爵位の授与を行いますので、此方へどうぞ」


 宰相に促され俺達は王座の前で跪いた。


「では、これより勲章の授与を行う!」


 俺達が跪くと王の隣にいた騎士団長っぽい人が叫んだ。そして、王にメダルのようなものを手渡していた。


「では、……ショウよ。其方は今回ゴブリンルーラー討伐にて我が国に多大な貢献を果たした。よってここに名誉騎士爵の勲章を授ける」


 そう言って国王は俺の首にメダルを掛けた。同じように他の二人もメダルを受け取っていた。メダルを受け取った後、俺達は下がり元の位置に戻った。


「それでは、これにて今回の謁見を終了する!」


 先程の騎士団用っぽい人が再び叫ぶと、全員が再び跪いたので俺もそれに倣う。すると、王様が部屋から出ていくのが分かった。


「それでは、冒険者三名は此方へ来ていただいても宜しいか?」


 やっと終わったと思い帰ろうとしたら、騎士団長っぽい人に呼び止められた。


「えっと、行かないと駄目ですか?」


 俺は行きたくないオーラ全開にして聞き返した。


「王が話をされたいそうだ。余程の理由が無い限り来て頂きたいが?」


「……そうですか」


 俺の言葉に騎士っぽい人は威圧感を出しながら返答してきた。うん、何だか断れなさそうだ。俺は大人しく騎士っぽい人に付いて行くことにした。




――――――




「コンラートです。冒険者の方々をお連れ致しました」


「うむ、入れ」


「失礼致します」


 俺達が部屋に入ると、国王が長椅子に座って待っていた。


「うむ、そこに座ってくれ」


 俺達は国王に勧められ、国王の正面のある長椅子に座り、コンラートと言った人は国王の後ろに控えた。ここは応接室のような感じの場所で、二組の長椅子とその間に机があるだけの質素な作りであった。


「まあ、楽にしてくれ。ここには私達5人しかいないので、敬語などは気にする必要はない」


「わかりました」


 お下げ髪は慣れた感じで返事をしていた。アズマさんは普段通り落ち着いている様子だ。緊張しているのは俺だけか。


「それで、ここに呼ばれた理由は何ですか? まさか、勧誘ではありませんよね?」


お下げ髪がとても自然な営業スマイルで国王を問いただしていた。笑顔なのに目が笑ってないというのを初めて見た。


「はっはっはっ! 鋭い! 一つはそうだ、勧誘だな。まあ、無理強いする気はないが、もし良かったらくらいだ。一応聞くが、其方等は私の専属護衛にはならないか?」


「お断りします」


 お下げ髪は国王の言葉を笑顔でぶったぎった。先程と変わらず威圧感が半端ない。それはともかく、俺もなる気はないので断っておこう。


「俺もお断りします」


「そうか。アズマ殿はどうだ?」


 そう言って国王はアズマさんの方を見て尋ねた。すると、アズマさんは考え込む様にして尋ねた。


「専属護衛ということは、騎士団とは別と考えても?」


「そうだな。私専属になるから、行動は常に私と共にしてもらうことになる。階級としては騎士団長と同等のものになるが、やってくれるのか?」


 国王は正直期待していなかったようで、驚きと期待の表情をしていた。


「そうですね、……詳しい話を聞かないとわかりませんが、前向きに検討させていただきます」


「おお! そうかそうか! なら後日、宰相も交えて契約内容を詰めていこうではないか!」


 国王は破顔し、今にも小躍りしそうなくらいの喜びようで、アズマさんの手を握りブンブン振っていた。


「アズマさん、本気ですか?」


 お下げ髪が信じられないといった表情で、アズマさんを見て言った。


「ああ。俺は一応王都出身でな。両親ももうそんなに若くないから、王都の近くでなるべく割のいい仕事をしたいと思っていたんだ。今回の討伐依頼は急だったが、かなりの額がギルドから提示されていたし、名前を挙げるのにもいいかと思ったんだが、予想以上の結果だったな」


 アズマさんは淡々と語った。相変わらず表情は読めないが、嬉しそうにしているのを感じた。


「そうですか。アズマさんが良いのなら良いですが……」


 お下げ髪はそう言って、口を尖らせ不満そうにしていた。何がそんなに気に入らないのやら。


「で、要件はそれだけですか」


 相変わらず棘のある言い方でお下げ髪が言った。


「ふむ。要件はもう一つあってだな、むしろこっちが本題だ。」


 国王は先程までとは違い、真剣な表情となり一拍おいて質問してきた。


「其方等は異世界人か?」


 その言葉を聞き、俺は驚きで心臓が高鳴った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る