見てる人

今井雄大

第1話

 夕刻に差し掛かった公園のベンチに腰掛けて、男は疲れはてた体を休めていた。

 それは、心地よい疲れだった。先ほど、大きな契約を取り付けたのだ。そのために、長い期間掛けて準備をしてきた。今日、それが報われた。今日のビールはさぞかし旨いことだろう。こういう喜びがあるから、日々の営業活動も乗り越えられるというものだ。

 さぁ、いつまでもこんなところで油を売っているわけにはいかない。会社に戻って報告書の作成が待っている。大型契約の報告書作成は嬉しい作業ではあるが、気を緩めすぎて下らないミスはしたくない。

 いままでにないような大型契約なのだ。最後までケチがつかないようにしたかった。

 男は立ち上がると、家路に着く子どもたちと同じように公園を出ようとした。

 ふと、視界の隅に違和感が芽生えた。それはまるで、瞳の中に飛び込んできたちりのようだった。

 小さいのに、気にせずにはいられない。気になって仕方のない存在だ。

 男は、わざわざ振り替えってまで、それを確認しようとした。そうせずにはいられなかった。

 それは、一人の男だった。

 先ほどから微動だにせず、大木の影に隠れるようにして、こちらを――正確には帰ろうとしている子どもたちを――じっと眺めていた。

「あぁ、あんなのが子どもに手を出すような犯罪に走るんだろうな」

 男は、誰にも聞こえない程度の声でそう呟いた。心の声が、つい口に出でしまったかのように……。

 幸いに、男の自宅はこの公園から離れている。気にかけて、余計な波風を立てることもないだろう。自分が気になるなら、この周辺の住人だって気にするはずだ。

 自分にそう言い聞かせて、不審者のことに蓋をすると、男はその場を立ち去った。

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