ティーvsトスvsどうでもいい


「私もそれが使いたいわ」


 いつの間にか椿つばきが寄ってきた。


「そう……なら私もティーにするわ」


 吉川はあっさりとトスマシンを椿に明け渡した。

 先ほどからトスマシンを使いたがっていた前園は少々不満顔だが、椿は左打席で黙々と打ち込む。


「そいえばさ、さっきから『ティーバッティング』と『トスバッティング』の違いについて話してたんだけどさ……」


 前園が椿に、論争の顛末てんまつをかくかくしかじかと話した。


「で、どっちが正しいと思う?」


 ……。


 トスマシンがボールを投じる際に立てるガシャコッという音と、椿がちょっと重めの木製バットでその球を捉える時の乾いた音色だけが響いている。


「あの……」


 何球かそれが続いた後トスマシンの球が切れて、マシンのアームだけが空回りしはじめた。

 椿がボールを拾っていると、前園の訴えるような視線に気づく。


「なにかしら……」

「聞いてなかったのかい……」


「なにをかしら」



 前園はため息をつくと、もう一回懇切丁寧に説明し始めた。


 それを聞いた後、椿はトスマシンにボールを設置し直し、再び打ち始めた。


「ちょっと! 聞いてた!?」


「……。どっちでもいいわ……」


 彼女はそう言ったきり、また黙々と打ち続けた。


 もっとも、その場所は吉川が使っていたところではあるが……。

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