第十三章

 こうして僕が『生きている理由』だった貴女は死んでいきました。

 僕が『生きている理由』だった貴女が『死んでいく理由』が僕だったのですね。

 でも、だからこそ僕は生きようと思うんです。二度と死に憧れる様な真似はしたくないんです。

 貴女がくれた命ですから——。


 貴女がいなくなった後、無事に退院できた僕は大検を受け、ちょっと長めの浪人生活の後、大学に合格し、今に至ります。 


 ただ何年経っても、あの夏の不思議な出来事は忘れることが出来ません。

 同時に、あの急患の音を聞いた時の貴女の悲しそうな表情も——。


 本当は研究職に就こうと思って、理系の大学を選んだんですよ。

 でも不思議なんです。やっぱり貴女のことが忘れられなくて、貴女のことを考えていると、不思議と言葉を紡ぎたくなるんです。

 それは今も僕の手元にあるこのノートのせいかもしれません。だから僕が目指しているものは変わってしまいました。

 そして僕が紡ぎ上げた言葉はもう数知れません。貴女のことを想うだけで幾らでも溢れてくるんですから。

 ただ今回の様にあの夏を回顧する文章を書いたのはこれが初めてです。その理由は貴女のことをもっとたくさんの人に知ってもらいたいからなんです。


 貴女は強く、美しく、そして儚い人でした。

 同時に僕の初恋の人でした。


 今日みたいに暑い夏の日は、貴女の言葉がずっとリフレインするんです。不思議とそれが嬉しくて——。貴女は間違いなく、僕の中にいてくれていますから。


 「可愛いね、君は」


 貴女のあの台詞、本当に大好きでした。

 あの夏が永遠であるように、貴女も永遠です。

 これ以上書くと、延々と続いてしまうので、この辺で終わりにしますね。

 またすぐに筆を執ります。

 いつまでもずっと大好きですよ、京子さん。

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守るべき人 - the necessity for - 第一部 Count Down Note vol.5 〜京子・光一〜 来夢みんと @limemint

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