4
八人のライトリアは、音もなく広間に現れた。頭から足下まで闇色のローブに包まれて、薄暗い広間の中央に集まっていた。
無言の中、一人の微かな合図で、八人は、二人一組の四組に分かれて行動を開始した。彼らの目的、すなわち、王が下した命は、魔王の姫と呼ばれる者の存在、そして、素性の調査だった。ただし、捜索の時間は十分。何も成果がなくても、時間が経ったら帰還するようにとのことだった。王も無駄にライトリアを殺すつもりはないのだ。
十分後、ライトリアは、それぞれの場所から、広間に集まった。魔王が気付いた気配もなく、今の所、すべてがうまくいっていた。
しかし、八人全員が集まった、そのとき、突然階段にある小さなろうそくの炎が揺らいだ。
普段なら気付かないような小さな変化だったが、不審に思った一人が振り返り、驚いた。階段の手摺に寄り掛かるように一人の男がひっそりと佇んでいた。
優秀なライトリアが、これだけいてなお気付かないほど、気配を感じさせずにその男は立っていた。しかも、いつからいたのか分からないが、人を呼ぶ様子もない。ただ、そこに立っていた。
ライトリアの一人がそっと動き、その男を狙って攻撃を仕掛ける。
それは仲間でも見えないほどの素早い必殺の攻撃だった。
しかし、それは空を斬った。
そこに立っていた男は、逃げる素振りすら見せなかったにもかかわらず、ライトリアより早く、長い銀髪をなびかせて避けていた。そして、驚いているライトリアの後ろにまわる。
「どこを見ている?」
冷たく、鋭く、どこか面白がっている声。
ライトリアがそれに気付くより先に、その男は、短剣の一振りでライトリアの命を絶った。
残った七人は驚愕した。
しかし、瞬時に立ち直る。そして、銀髪の男を牽制しつつ、国に待機する術者に合図を送る。緊急時には、向こうから“帰還の道”を作り出してくれる手筈になっていた。空間を繋ぐ術は高等魔法の中でも特に難しい大魔法だ。敵に見つかったという精神状態で出来るものではない。だが、どんなに呼び掛けても国にいる術者から反応が返ってこない。
銀髪の男も、それに気付いたようだ。笑って言った。
「ここでは魔法は使えんよ。もちろん、通信も出来ない」
そして、すっと笑みを消した。次の瞬間、銀髪の男――魔王が姿を消す。それと同時に、音もなくライトリアの一人が倒された。
残されたライトリアたちは、とにかく後ろを取られないように背を合わせて陣を組む。六対一だ。いくら敵地だとはいえ、普通ならば、ライトリアたちに分がある。しかし、魔王の方が上手だった。
魔王は、ライトリアたちが陣を組んでいる隙に、広間の闇に紛れ、消えた。
ライトリアたちが、どんなに神経を研ぎ澄ましても、気配すら感じられない。しかし、この広間から出ていない事は確かだ。何故ならば、そこには怖いほどの威圧感が漂っていたからだ。
ライトリアたちの背に、冷たいものが伝う。たった一人に、五人のライトリアが、圧倒されていた。
「どうするのかな?」
声とともに銀の光が一瞬走り、一人が倒れる。魔王の姿すら捕らえられない。
「……その程度で、良く出向いて来たものだ」
嘲笑するように、声が響く。そして、また、一人倒される。
「これで、あと三人」
面白がるような声。ライトリアは、また一人、声すら上げず倒れる。
「あと二人」
声と共に、また一人倒れる。絶体絶命だった。たった一人によって、六人のライトリアが倒されたのだ。なす術がない。
銀の光が、ライトリアを襲う。残った二人の片割れが、倒れた。
「これで、あと一人だ」
魔王の声が木霊する。
銀の光が、最後の一人に向かって走った。最後に残ったライトリアも、為すすべなく倒されると思われた。
しかし。
魔王は、止まった。最後の一人まで、あと数メートルの距離で立ち止まり、あらぬ方を見やる。
残ったライトリアは、この隙に、魔王との距離を開け、短剣を構えた。
しかし、魔王は、仕掛けて来ることもなく、ただ、広間の入口を見ていた。
さすがに不審に思ったライトリアも、入口に目をやる。ちょうどそこに、誰かが現れた。
それは――。
「キルリアっ!」
最後のライトリアは、その姿を見て、思わず叫んだ。
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