銀河開拓団始末記

石川暁

第1話

 重大な事故というものは世の中がいくら発展し続けても無くならないのは有史以来の理である。

 それは、完璧なセッティングを施された自動運転車にしても、徹底した安全管理を受けた旅客機にしても、故障する確率はパーセンテージにして1にも満たないと研究者が技術者が証明を出しても変わりのないことである。

 まず人が使うという時点で既に事故が起きるかもしれないことを認めなければならない。人は学習する生き物であるが全員が一様な理解をすることは先ずありえない。そもそも忘れた頃に一大事はやってくるのが昔からの習わしである。


 そろそろ、空港へのアプローチが始まる頃合いだろうな。姿を見せるにはあと1時間は要るだろう。

 まだ日の登りきらぬ対岸の街並みを臨みながら腕時計を見やれば丁度それぞれの針は互いに背を向けていた。

 大阪湾上に造成された埋め立て地での目覚めは潮の香りとロケットの轟音と共にある。


 月での資源採掘が始まって5年、宇宙空間での発電事業が始まって20年。正式名称、環太平洋銀河開拓機構は太平洋岸の国々が共同出資する世界最大の宇宙事業体である。

 私は宇宙で働くことに憧れ、この開拓団に入ったのだ。

 現に、同期の十数名は月での勤務、通称アポロ勤務に従事している。

 更にある同期は火星に行ってしまった。通称、硫黄島若しくは島流しである。


 では、何故私はこの関西国際空港にいるのか。

 まだ薄暗い空を臨み、天空の同期を思うと悔しさがにじんでくる。沈みかかる満月の上で奴らが働いているのを考えると残念でならない。

 骨董品の2輪車を転がしている時に同じく骨董品の軽トラにはねられたという類を見ない強運の持ち主である私は見事に腕を折ってしまった。それが、3か月前の話であり、事故から2か月後に控えていた宇宙行きは補欠のラッキーボーイが射止めたのだった。

 で、そのラッキーボーイの行くはずだった大阪での連絡業務を私が引き当てたのであった。


「腕は治ったんで行けないですかねえ」

「最低でも1年はかかるなあ。せやけどここでの仕事もええやろ?大体、宇宙みたいなとこ私は怖くてよお行かへんわ。清水の舞台でも私動けんかったもん」

「やけど、もうぴんぴんしてるんですよ!折角リハビリしながらランニングと筋トレずっとしていたのに」

「まあ、確かに元気なんは知ってるし体力検査も合格するやろなとは思う。やけど、向こうは人材が足りてるしこっちは逆に足らん。私はあなたの仕事ぶりを買ってるし、あなたの代理君は結構有能やって聞いてるで」

「そうですか…」

 ここは管制塔。塔と名はあるが航空機用のそれよりはかなり太く、まるで要塞の如き様相を呈している。しかも「管制」、といいつつもロケット一つ一つの挙動に一喜一憂していた20世紀に私が行っても何も役には立たないほどに今はかなり楽な仕事と言われている。

 

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