第2話 穏やかな休日

――俺の考えた計画はこうだ。

 クリスと行動を共にすることで、クリスを通してエリス様の一人で頑張りすぎてしまうところを変える。以上! ついでに、たまの休日を楽しんでほしいぐらいか。


 エリス様の真面目さは美点だと思うけれど、お堅いのはいただけない。アクア程とは言わないが、もっと楽に生きてほしいのだ。

 その点で、俺には過去の実績がある。めぐみんやアイリスによれば、俺のおかげでダクネスはお堅いところが治ったというじゃないか。特別何かした覚えもないから、一緒にいる内に俺の柔軟性や機転のきくところを学んだに違いない。

 ならば今回も同じ感じでいけるはず。良い機会だから正統派メインヒロインの好感度アップを狙って、デートに誘ったのだが……。


「まったくもう。キミはホントに突拍子もないことばっかり言い出すね、まったく。いきなりデートしようなんて言われたからびっくりしたよ。……でも友人のためなら一肌脱がないとね!」


 勢い任せのデートの誘いは、浮気はダメとのことで断られてしまった。めぐみんやダクネスとは最近良い感じではあるが、付き合ってるわけでもないのだから浮気にはならないだろうに。

 とはいえ、一緒に行動できないことには計画が立ち行かない。なのでデートの練習に付き合ってほしい、ということにしたのだ。


「ねえ、結局キミはダクネスとめぐみんのどっちを選ぶの? よく考えたらパーティー内で三角関係って大丈夫なのかな? あたしとしては、みんなには仲良くしてほしいけど。……でも曖昧なままはよくないよね。ねえ、どうするの!?」


 さっきからクリスのテンションが妙に高い。前から興味津々といった感じがあったが、恋バナとか好きなんだろうか。


「俺としても、みんなと仲良くしたいよ。金持ちのうえにモテ期まで来てる俺には、今後も美女・美少女とのフラグが立っていくはずなんだ。そこから上手くやれば、たぶんハーレムルートに入っていけるだろ? そしたら、もう危険なことはせずに美少女たちと爛れた生活を送っていけるって寸法だよ。だからやっぱり結論を出すのはまだ早いと思う」

「……キミってやつは……。」


 おっと、これはゴミを見る目ですね。半分くらいは冗談なのに……。


「……誰を選ぶかって話は置いとこうか。じゃあ、デートの練習をするとして、キミはあたしをどこに連れて行ってくれるの?」

「そうだなあ。おっ、あそこに宿屋があるじゃないか。……わ、悪かった、悪かったよ。謝るからそんな目で見るのはやめてくれ。」

「セクハラはダメだって何度言えば……。そもそもキミってば茶化したりはぐらかしたりしてばかりだけど真面目に考えてるの? 恋愛は誠実さが一番大切であって――」


 やばい、説教が始まった。


「行き先は歩きながら決めればいいんじゃないかな。ほらほら、置いてっちゃうぞ」

「あっ、ちょっと! 話は終わってないからね!?」


 クリスの言葉に聞こえないフリを決め込んで、俺は歩き出した。



◆◆◆◆◆



 よく考えてみれば、アクセルのデートスポットなんて知らないし、俺達には行きたい場所もない。結局あてもなく街をうろつき、クリスと他愛もない会話をする。普段のように周りの馬鹿な言動に振り回される事も無く、話のネタが尽きる事も無く会話は続いていく。


――街のグルメ情報を教えたり

「へえ、アクアさんとアクセルの飲食店巡りかー。美味しいお店見つけた?」

「アクアは勝手についてきたんだけどな。えーと、あっちの店はまあまあで……。あっ、あそこにある店は良かったぞ。料理が美味しいし、何より店員のノリが良い」

「ノリ? 海苔じゃなくて? それって飲食店に必要なものなの?」


――知り合いを見かけたり

「あれ、あそこにいるの紅魔族だよね? めぐみんの知り合いかなあ」

「ああ、ゆんゆんだな。めぐみんのライバル? だ。……随分熱心に花を眺めてるな」

「知り合いなら話しかけたら? というかあの子、花に話しかけてるような」

「失礼ですよ、お頭。まるであの子には植物しか話し相手がいないみたいに言って」

「そんなこと言ってないし、失礼なのはキミだよ!? ……でも確かに真剣な顔してるから、邪魔したら悪いかな。行こっか」


――妹の話を聞いたり

「アイリスは元気にしてるかな。お兄ちゃん心配だよ……」

「キミの妹様なら世直しの旅とやらをしてたとかしてないとか。あたしたちもやる? 世直しの旅」

「しないよ、そんなの。しかし旅してるなら、いつかアクセルにも来ないかな」

「……」


――恋バナをしてみたり

「……でだな、夜中に部屋で二人きりの状況で、めぐみんが言ったんだ。『本当に何もしてくれないのですか?せっかく二人きりなのに?』って」

「はわわわわ。まだまだ子どもだと思ってためぐみんが、そんな大人な感じに……。そ、それで、それで二人はどうなったの!?」

「その後のことは想像にお任せします。ただ紅魔の里にいた頃は、毎晩同じ布団で寝て布団の中でモゾモゾしたりしました」

「!?」


 本当に取るに足らない話ばかりだが、たまにはこういうのも悪くない。

 しかし、名前だけとはいえデートってこれでいいのか? 別に退屈した訳じゃないが、普通はもっと洒落た店でも冷やかしたりするものな気がする。


「クリスはどう思う?」

「楽しければなんでもいいんじゃない? あたしは楽しんでるよ」


 一緒に居られればいいってことだろうか。やだ何その口説き文句、照れちゃう。


「そっか、よかった。俺、割と本気でデートといったら宿屋にしけこむイメージしかなかったよ」

「……」

「む、無言で距離をとられると結構傷つくんだけど……。仕方ないだろ、今までデートなんてものと無縁の生活を送ってたんだから」


 スススっと離れていくクリスに抗議するが、距離は縮まらなかった。

 空いた隙間もさっきまでの会話もなかったかのようにクリスが話し始める。


「ねえ、近くにエリス教会があるから見学に来ない?」

「な、何だよ急に。懺悔とか嫌だぞ、面倒くさい」

「キミはもう少し自分の言動を省みるべきだと思うけど……。でもそうじゃなくて、結婚式場の下見ってことで」


 結婚式場? 何言ってるんだろう、この子は。


「何? 結婚してくれるの?」

「しないよ! ……なんていうか、キミ達にとってはもうデートってそんなに重要じゃない気がしてさ。だって、もうお互いをよーく知ってるわけだし。だから、次の段階といったら結婚かと思ってね」


 クリスがそんな恥ずかしくなるようなことを言ってきた。

 ……いや、知ってるといっても悪いところばっかだから。まあ多少良いところがあるのも否定しないけども。大体デートの相手があの二人だとは限らないだろ、いい加減にしろ。


 うろたえる俺を見て、クリスはイタズラっぽい笑みを浮かべている。くっ、くやしい……。


「女神エリスとして降臨して祝福してあげようか? ……あっ、でもアクア先輩が何て言うかな。仕事横取りしたって怒られそう……」

「あいつにだけはやらせないから。アルダープの前例もあるし、縁起悪すぎだろ」

「そ、その言い草はあんまりだよ……。先輩は本当に、とっても強い力を持つ女神様なんだからね?」


 ほーん、と気のない返事を返してしまう。スペックの高さは知ってるけど、それを覆して余りあるポンコツさを何とかして欲しいものだ。



◆◆◆◆◆



 結局、他に行くところもない俺達はエリス教会に向かっている。道中は大して知らない日本の結婚式の話を、聞き見知った範囲でクリスに話したりした。


 そろそろ到着するだろう、という時に前方から穏やかでない声が聞こえる。


「アクシズ教徒の襲撃だあ!」


 ……やっぱり何も聞こえなかった。気のせいだな。

 無言でUターンしようとした俺の腕をクリスが掴む。


「助手君」

「嫌だ! 俺は行かないぞ! せっかくの休日になんだってあんなやつらと関わらなきゃいけないんだよ!」

「だって、ウチの子達が……! お願いだよ、助手君!」


 抵抗もむなしく、クリスに引きずられていく。

 穏やかな休日に終わりを告げなければいけなくなってしまった。ちくしょう……!


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この頑張り屋さんな女神に休息を! キャベツ会長 @cabbage

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