テスト・パイロット〜その9〜
「柿崎ぃぃぃぃぃ!! 」武石の声がコックピットにこだまする。
「心配要りませんよ、隊長。俺はピンピンしてますから。機体はメチャメチャですけどね」柿崎は耳をさすりながら言った。
「ならいいんだが……」武石はため息をついた。柿崎がピンピンしていたのは嬉しいが、明らかに劣勢になった。厳しい状況だが、潔く負けを認めるというのはパイロットとしての矜持に関わる。何とかして一矢報いたいところだ……そんな事を考えている武石の横を一本、また一本と光条がすり抜けていく。どんどん子機の数が増え、見えているだけで五機はいる、これでは子機さえ捌ききれない。冷や汗が頬を伝う、ヘルメットの中がむせるほど暑い、武石はフェイスガードを上げた。
六機で襲いかかってくる子機に周囲を囲まれた状況において自動防御システムも功を奏さず、エネルギーフィールドは形成されずに飛散する。シールドは焼け付き、全身のアンチ・ビーム・コーティングは剥離し始めている。アサルトライフルは使い物にならないので既に捨てている。額の汗を拭うと、武石はトリガーを引き、背部ユニットからミサイルを発射して子機の牽制を急ぐ、大きく広がった爆風が長く伸びたケーブルを三本ほど溶かした。
「子機とのリンクが切れました、ケーブルがやられたみたいです」明希は冷静にそう告げた。
「問題ないよ、あと十七機もあるんだから」奏志は向かってきた一機とサーベルをぶつけ、一度距離をとってから、そのままジェネレーターを一突きして敵機の動きを止めた。
「そうですね、なかなか捕まりませんけど……」
「それじゃあ、こっちから攻めてみようか」奏志は子機の一部をバックパックに接続し、ブースターとして使用できることをチェックするとそのまま赤いマーカーの方へペダルを踏み込んだ。
「隊長! 奴が来ます! 」すっかり狼狽えた様子で田中は言った。新兵ってのはこれだから困る、これだったら向こうの女の子の方がよっぽど肝がすわっている。
「心配するな、落ち着いて対処すればあの子機とて大した脅威じゃない。ケーブルを切っちまえば動けないんだから、俺とタイミングを合わせてミサイルを撃て、いいな! 」武石は田中の機体と背中を合わせ、再びスナイパーライフルを構えた。
「わ、分かりました……」田中は不安そうにそう答えた後、ギョロギョロと目を動かした。視界の隅に子機の姿が映り始めている。レーダーには二機を取り囲んだ赤いマーカーの円が少しずつ狭まる様子が示される
「只今よりカウントを開始する、ミサイルの誘導方式は標準、あるだけ全部ぶっ放せ! 」武石は出来るだけ大きな声で自ら、そして田中の不安を払拭するように言った。
「了解です! 」ディスプレイに映った田中は既に臆病者を忘れていた。
「五、四、三、二、一、発射! 」二機から放射状に広がっていったミサイルは漆黒の
さて、何本切れたかな……武石がレーダーに目を向けた一瞬、その僅かな間に機体の膝から下は斬り落とされた。
「クッ……機体ごと突っ込んできやがったのか! 」あの高校生、見かけによらずなかなかクレイジーな事をしてくれるじゃないか、両足をパージしながら武石は奏志に評価を下した。
「おおっ、避けた」奏志はこれまでのパイロットとは違う武石の動きに目を見開いていた。
「避けましたね、子機のケーブルの半分も切られちゃってますよ」明希は感嘆するように言った。
「なかなかやるなぁ、脳波コントロールの速度に付いてくるなんて」奏志はサーベルの出力を二十パーセント引き上げ、刀身が伸びたのを確認するやいなや、下方からビームを撃った田中の機体を両断した。コックピットブロックの真下をサーベルがすり抜けていった田中は薬を飲んでいなければ失禁していただろう。
「これで武石さんとタイマンになった」奏志はふぅと息を吐くと再び武石の方に向かってスラスターを吹かした。少しずつ機体と身体の連携が高まっていく感覚に奏志は言いしれない興奮を覚えていた。普段作業用の二五式を駆っている時でさえ興奮しているのだ。こんなに優れた機体を操って興奮しない訳がない。奏志は嬉々とした笑みを浮かべながら、逃げていく武石の機体を追った。
武石は向かってくるゼー・イーゲルのジェネレーターに狙いを定め、
カウントが零になった時、武石は人差し指を軽く引き込んだ。最大出力の荷電粒子は燐光とエネルギーの奔流を伴って凄まじい速度でゼー・イーゲルに向かっていった──
が、ゼー・イーゲルが伸ばした左腕に軽く弾かれてしまった。やられた……トリガーを引いた瞬間、ゼー・イーゲルが僅かにカウンターバーニアを点火したのが見えていたのだ。武石は万事休すとスナイパーライフルの銃身を両手で持ち、目前に迫りサーベルを振り上げたゼー・イーゲルに対し、餅でもつくかのように叩きつけた。ゴインと変な音がして銃身がねじ曲がった。直後に、ファランクスはピタリとも動かなくなった──
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