第四幕『邂逅』

 酒場を出た俺は、情報屋レヴの調べ上げた裏道や隙間道を通って早速砦へと侵入した。今は使用されていないダストシュートなんぞを調べ上げて来るからアイツの能力は本当に凄い。影を自在に操る能力を持つ魔族の少年。アイツについては今後詳しく語る事にしよう。

 強い摩擦性を持った特別製のゴム底ブーツでダストシュートから倉庫へと忍び込み、更に砦の中を壁一枚向こうから縦横無尽に駆け回った。この砦は冬の厳しい地方に合わせて煉瓦が二重に組まれていて、所々に人が通れるほどの隙間を有していた。そこをスルリスルリと駆け回り、爆弾魔の男が収容されている牢屋の壁に辿り着く。

 ガコン、と一つだけ外れる石煉瓦をずらせば、部屋の中央に後手を縛られたまま横たわる男の姿が見えた。物音に気付いていたのか、男の視線とバッチリかち合う。驚きに見開いた男の瞳に魅入った。痣だらけの顔の中にあって強い光を放ち続ける、大きな赤い瞳の虹彩が金色に輝いていた。何だ、あの目は?


「……貴様、何者だ」


 大方の予想なりは付くのだろう。外の見張りの兵士に聞こえぬように細い声で男が問う。


「おーいおい、助けてやろうかって来た相手に、その言い草はヒドくねぇか?」

「誰だ。貴様に助けられる由縁はない」


 ピシャリと言い切る辺りに芯の強さを感じる。悪くない。小さな隙間から覗き込んで話を続ける。


「お前に無くてもコッチにはあるんだなぁ。火薬大好きな爆弾魔さんよ」

「……何者だ」

「しつこいねぇ。俺はラースタチカ=フェルディナンド=ヴィカーリオ。海賊船長だ」


 海賊、と聞いて男は怪訝そうな顔をする。


「長い名前だな」

「そこかよ!」

「で、その海賊が僕に何の用だ」


 クールなんだかボケてんのかわかんねぇヤツだな!しかし信用されて無いねぇ。そりゃそうか、壁の中から少しだけ見える顔だけで話をしてるんだからな。ふぅっと息を整えて、本題を切り出す。

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