第三幕『爆弾魔の殺人鬼』

 この一帯で体の一部が無くなった死体が発見されたのは半年前の事。死体の右腕が肩からまるっと無くなっており、それが剣や斧によって切断された傷ではないと診断された。切断面は焼け焦げているが魔法を使われた形跡は無く、何をどうしたらそんな風に人を殺せるのかと物議を醸した。欠けた体の一部は何処をどう探しても発見されなかった。それからも体の一部が無くなった死体が街の至る所から見つかり、人々は恐怖に震えていた。


 ところが一月ほど前。その殺人者から逃げ仰せた者が現れた。この辺りで海軍の監視下にある、火器を中心に生産する鍛冶衆の一人だった。光る赤い瞳の爆弾魔だ、との証言に、あっと言う間に殺人爆弾魔の名前が広がった。証言した男はとっさに出した左手を吹き飛ばされたが、命辛々逃げ仰せ、そして小さな爆弾によって手を吹き飛ばされたと証言した。


「人間の手を吹き飛ばす"だけ"の精密な爆弾なんて作れるもんかよ」

「精密で美しいほどに正確な爆弾を作る。だからこそ、今回のお縄に繋がったそうです」


 同じ鍛冶衆に所属する、メーヴォ=クラーガと言う男が容疑者として浮上した。彼の爆弾、特に火薬に対する思い入れは尋常ではなかったそうだ。


「なるほど……で、処刑の日取りは?」

「明日の夕方、十六時。場所は海沿いの砦の中庭。こっちが砦までの裏道と、内部の見取り図です」


 レヴは手のひら程の大きさの地図を二枚、そっとエールジョッキの下へと差し込む。ジョッキの水滴に、無地だった紙に地図が浮かび上がった。


「よし、その爆弾魔とやら、いっちょ強奪に行きますかっと」


 俺の背後の柱の影から、船医マルトの深い溜息が聞こえてきた。

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