帰ってきた魔法少女まりか

T-大塚

帰ってきた魔法少女まりか

 日曜日の朝、朝食を摂るためテーブルの席につく。

 一人で静かにというのも味気ないのでテレビの電源を付ける。

 そのテレビでやっていたのは有名な少女向けアニメだった。

 『魔法少女○○』シリーズ。

 10年前から始まった超人気アニメシリーズだ。


「げっ、魔法少女……」


 しかし、私こと京本麻理香は思わず独り言を漏らしてしまうほどこのシリーズが苦手だったりする。

 なぜかというと、それには深い理由があるのだ。


「おっ、魔法少女じゃん! 懐かしいなー」

「うわっ! 急に私の部屋に現れないでよ! 」


 唐突に現れたのはとある青年だった。

 ドアから入ったわけではなく、瞬間移動をしてきたのだ。

 知らない男ならば間違いなく通報するのだが、残念ながらよく見知った相手である。

 そして瞬間移動という超常現象も悔しいことに馴染み深い。


「人間の姿で部屋に来ないでっていつも言ってるよね? 」

「固いこと言わないでよ、まりか。君とぼくの仲だろう? 」

「私はアンタに関する記憶すべて消して速攻縁を切りたいのだけど」

「それは困るな……」


 青年はそう言うと姿を変えた。

 青年の姿はそこにはなく、代わりにファンシーな手のひらサイズの謎の生物がいた。

 犬やネコ、その他諸々のカワイイ生き物をごちゃ混ぜにしたような見た目だ。

 この世に一匹だけだろうこんな生物は。


「相変わらずその姿はカワイイわね、マカロン」

「ありがとう。まりかも魔法少女のときは可愛かったんだけどね……」

「はいはい、そうですか」


 私の部屋に現れた青年の正体は、珍獣マスコット『マカロン』。

 そして、私はシリーズ初代である『魔法少女まりか』のモデルその人なのだ。

 そして魔法少女時代は私にとって最大の黒歴史なのである。


――――


 『魔法少女まりか』の放送から既に10年が経っている。

 もちろん私もその分年をとってしまう。

 現在20歳の私は絶賛一人暮らし中の現役女子大生だ。

 愛の力でビームなど出さないし、友情の力でバリアを張ったりもしない。

 普通の生活が一番だ。

 本当の意味で普通の生活をおくるためにはマカロンを排除して、私に与えられている魔法の力を消してしまう必要がある。

 しかし、現在私はマカロンの魔法のおかげで『まりか』だと知られずに生活することができている。

 つまり、私に与えられた選択肢は、魔法が使える一般人『京本麻理香』か、魔法が使えなくなった『魔法少女まりか』の2つのみなのだ。

 完全なる普通の生活は許されない。


――――


 ある日の夕方、私は大学のカフェテリアでコーヒーを飲みながらレポートを作っていた。

 別に家でやってもいいのだけれど、カフェテリアってなんだかおしゃれな感じがする。

 それに、なるべくキャンパス内で行動すれば出会いがあったりするかもしれないし。


「ちょっといいかい……? 」


 何者かが私の肩を叩いてくる。

 声から察するに男性だろう。

 何者か、と言っても私にこんなことをしてくる男は悲しいことに一人しかいない。


「何の用? マカロ……ン」


 そこにいたのは人間の姿をした『マカロン』ではなかった。

 黒いフードを被った痩せこけたおじいさんの姿がそこにあった。

 しかし、その姿はこの世にはもうないはずだった。

 私が、消したはず……!


「久しぶりだなぁ、まりか……。まさか魔法で一般人に紛れ込んでいるとは思わなかったよ……。

あんなに小さくて可愛らしかったキミも、もう立派な大人の女性だね……。ひひ……」

「ラーハクッセ! あなたは私が消したはずじゃ」


 ラーハクッセは10年前日本を侵略しようと攻めこんできた私の敵だ。

 しかし私の魔法で粉々にしたはずだ。


「ああ……、粉々だったよ。でも復活したんだよ……。ほら、見てごらん……僕の体を。ちゃんと生身だろう……」

「……汚いものしまいなさいよ」

「なんてことだっ! あんなに可愛らしかったまりかが、一体どうして……。歳を取ることの残酷さよ……」

「悪かったわね。それで、一体何の用なの」

「僕にそんなことを聞くなんて野暮だね……。僕はキミと違って10年前と変わっていないよ……。

僕の敵であるまりかを倒しに来たんだ……。外に出ようか……」


 それだけ言うとラーハクッセは姿を消した。

 戦わなければならないの? 冗談じゃない!

 でも抵抗しないと……。

 あいつの好きにさせるわけにはいかないよ……。

 くっそー! 私の人生、選択肢無さすぎ!


「久しぶりにこの時が来たね! 」


 私の肩に珍獣フォルムの『マカロン』が瞬間移動する。


「全然嬉しくないんだけど……。仕方ないっ! 」


 私はカフェテリアを飛び出し、ラーハクッセの元へと走りだす。

 私の平穏を壊しやがって、絶対に許さない……。

 10年前よりも酷く消してやる……。

 すぐにラーハクッセを見つけることができた。

 しかし、少々おかしなことになっていた。


「おいおい、あれってまりかちゃんの敵だった奴じゃね? 」

「コスプレだろ、あいつはまりかちゃんがラブビームで吹き飛ばしたんだ」

「でもあの敵ってまりかちゃんにエッチな攻撃ばかりしてたよな。俺楽しみにしてたもん」


 ……ラーハクッセの周りに人だかりができてる……。

 そうだ、みんな現実の『魔法少女まりか』を忘れたわけじゃないんだ。

 ただ私と結びつかなくなっているだけで。


「まりか、待ちくたびれたよ……。勝負といこうじゃないか」

「え、待って。見てる人いっぱいいるし、ちょっとやめない? 」

「問答無用だ……」


 ラーハクッセは指を前に出し、私に向けて光線を放つ。

 その光線は私の足元への威嚇射撃だった。


「まりか……。早く変身しろ……」


 ラーハクッセと野次馬の視線が集まる。

 野次馬の中では、あの子がまりかちゃんなのかどうかという議論が始まっていた。


「まりかっ! 早く変身しろ! 」

「敵と同じセリフを言わないでよ、マカロン……」


 しかし、変身して戦うしかなさそうだ。

 こんな大勢の前でとか、羞恥プレイかよ……。

 でも腹を括ろう。


「……マジカルパワー・ドレスアップ……」


 変身の呪文を唱える。

 しかし何も起こらない。


「まりか、叫ばないと変身できないってもう忘れたのかい? 」

「知ってるわよ! マジカルパワー・ドレスアップ! 」


 半ばやけくそになりながら叫ぶ。

 その言葉に反応するかのように私は光に包まれる。

 魔法少女の可愛らしい衣装に変わっていく。

 赤を基調としたフルフリのドレスのような衣装だ。

 ミニスカにへそ出しと露出が多めだったりする。

 ……ご丁寧にサイズも今の私にピッタリだ。

 それにちょっと大人らしくなってる気もする。


「この日の為に日々衣装を作っておりました! 」


 私の肩に乗るマカロンが自信満々に言う。


「さすがまりかの相棒……。やるじゃないか……。さて、始めよう」


 もう一度ラーハクッセは光線を放つ。

 今度は私に命中させるつもりだ。


「マジカル・シールド! 」


 私は咄嗟にシールドを張って防御する。


「出た! まりかちゃんのマジカルシールドだ! 」

「俺、あのシールドが破られるの見たことねえよ」

「……だが一度出すとしばらくシールドは張れなくなる」

「使いどころが大事ってことね」


 野次馬がすごい私に詳しい! 恥ずかしい!

 いや、気にしちゃダメだ。

 速攻で終わらせよう。

 私は精神を集中させ浮かび上がるイメージをする。

 空中戦に持ち込んでやる!


「かかったな……」


 私が空へと浮かぶとラーハクッセがつぶやく。

 そのつぶやきとともに私の周囲に魔法陣が浮かび上がる。

 次の瞬間、私の衣装はビリビリに破けていた。


「……え? 」


 何が起きたんだ……。

 私は私が置かれている状況を理解出来ないでいた。


「大人まりかちゃんがあられもない姿に! 」

「俺、女の子の下着なんて見たことなかったよ」

「……黒」

「大人まりかちゃんのおっぱい! 」


 いやああああああ、見ないでええええええ!

 私は咄嗟に腕で胸を隠す。


「フフ……まりか、覚悟しなさい……」

「覚悟するのはお前だ! 死の覚悟をなああああ! 」


 よくも大勢の前でこんな辱めを……!

 だから嫌なんだ、魔法少女なんて!

 私は右腕を前に突き出し呪文を唱える。


「ラブゥ……、ビィィィイイイイム! 」


 極太のビームが発射されラーハクッセを粉砕する。

 ……はあ、悪は去った。

 早く人目のないところに行かなければ……。


――――


 日曜の朝、いつものようにテレビを付ける。


「新番組、『帰ってきた魔法少女まりか』始まるよっ! みんなも一緒に、ラブ・ビームッ! 」


 私はテレビの電源を消した。

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