第19話
年が明けて、二月も終わりに差し掛かり、社会人一年目が過ぎようとしていた。
久しぶりに母からメールが入っていた。父が帰ってくるらしい。だから、今日は顔を出せと、そういった内容のメールだった。
ぷるるるる、と電話が鳴った。
「二件緊急のオーダーが入ると思うから、処理をしておいてくれ!」
そう言って、すぐに電話が切れた。五反田さんだ。
大した緊急でもないのに、なんでもかんでも緊急だ! と言う癖があり、いつも委縮してしまう。
コピーを取り終わると、ファックスが二枚届いていた。
いつぞやのやきいも祭りで協力した食品会社からのオーダーだった。この会社からは商品を購入しているが、こちらから販売している商品もある、相互に取引をしている会社だった。
一枚は、明日届け、もう一つは来週届けになっている。
緊急オーダー用のファックスなのに、来週届けなのは、おかしい。
わたしは仕方がないので、五反田さんに電話をすることにした。
「なんだよ、緊急?」
「あ、はい。先ほどのオーダーの件なんですが、」
「だから、処理しておいてくれって頼んだだろ」
「いまからするところなんですが」
「で、」
「あ、はい。緊急オーダーなのに、一枚は明日届けなんですが、もう一枚が来週届けになっているんです。これ、あってますかね?」
「……、うーん。わかった。確認して折り返す」
プツリと、電話を切る音が心なしが乱暴に響いた。
ふうーと、わたしは息を吐く。
時計を見ると、もう十時三十分を過ぎていた。
明日届けにするためのオーダーは、十一時までに決定しなくてはいけない。
それにもかかわらず、一向に五反田さんからの電話は来なかった。
また、わたしから電話をするのか。
億劫だが仕事のためだ、しなくてはいけない。
しかし、五反田さんへ電話は繋がらなかった。別のお客さんの打ち合わせに入ってしまったのか。
時計を見ると、残り後、五分しか残されていない。
仕方がないので、わたしは明日届けのオーダーだけは流しておき、来週のオーダーは保留とすることにした。
お昼ご飯になり、わたしは自分で作ってきたお弁当を広げた。
大したものではない。冷凍食品を適当につめて作った即席弁当である。
中学校までは給食で、高校生からは自分でお弁当を作っていた。母の手料理というものを、わたしは殆ど知らない。料理を作る習慣がない母よりも、圧倒的にわたしの方がうまくなってしまった。味気ないお弁当を食べて、わたしはふうとため息をついた。
母から来たメールを見る。今日は帰って来いか。
――期待しても、いいのだろうか。そんなことを思う。
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