絵の問題 その2

「くっくそっ、このアイテムがあれば、24色使えるが………しかしっ……。」

1人の男が、パソコンの前で苦悩していた。

「こうなれば課金しかっ、いやオクに出てるかもしれないし……。でも今の金貨で足りるのか?

……いやしかしっ……。」


男は<エルダー・テイル>において<画家>をやっていた。

そこそこの実力を持ち、<画家>専門ではあるが一応頼りにされることが結構あった。


絵画システムについてアタルヴァ社は通常の会社では考えらないほどの悪辣かつ順当なシステムを組み上げていた。

まずは簡易パレットを使い絵を書くのだが……コマンドを行うのには必要なアイテムを持っていなければならないという制限があったのだ。

しかもアイテムの種類によって露骨にコマンドが増えていくので、一度増えたコマンドに慣れてしまうと、コマンドが減ることに耐えられなくなるのだ。

しかも画材はパレットで絵を書いたり、スタンプを使っていくたびに消耗していくのだ。

必然的に補充が必要になっていき……やがて課金に頼るようになっていくのだ。

それだけではない。外部アプリケーションからの貼り付けコマンド(忌々しいことにコピーコマンドだけはある。)は最初からなく、必然的に簡易パレットで絵を書く必要があるため、画材の確保は絵師の最重要課題になっていた。

ここでも、アタルヴァ社の悪辣さは群を抜いていた。

便利な機能を追加するアイテムの大半が秘宝級だったり高レベル製作級だったりするのだ。

必然的にそう言ったアイテムは高レベルの冒険者が手に入れて……自分のアイテム用の素材に変えてしまうのだ。

一部が知り合いの<画家>の手に渡るが、そうでない場合は必然的に素材に変えられてしまう。


自分で冒険して手に入れようにもその手のアイテムはランダムドロップであり、必然的に収集が難しくなっている。

低レベルの≪8色絵の具≫、≪黒い鉛筆≫、≪イレイサー(消しゴム)≫は簡単に変える為、それほど問題ではないが、それ以上のとなると、

製作級アイテム≪24色絵の具≫、≪12色鉛筆≫、≪図形テンプレート一式≫はまだ簡単に作ることができるのだが、

秘宝級アイテム≪虹色の絵の具≫、≪やりなおしのパレット≫、≪下書きのパレット≫……などはランダムドロップのみという設定なのだったりする。

………そう、決して課金しなければ手に入らないわけではないのだ。

しかしランダムはランダム。マラソンをしても確実に入手できるわけではなく、なおかつそれをやるにしても他のドロップが面倒なのだ。

これにより『課金しないとやってられない』という批判をかわしつつ『ランダムドロップで落とすかどうかわからないから、課金ですませる。』という選択肢に進めやすくするのだ。


この計算高さと悪辣さを回避する子の方式はアタルヴァ社20年の策略の一つとして数えられている。

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