第39話


 そうこうしているうちに、押し黙って至極つまらなそうにしていたはずの着物姿の少女がきらりと目を輝かせ、パッと愛らしい顔を上げた。


「そのゆうしゃのおとぎ話、どんなお話なのか、知りたいっ」


 どうやら男が提示した物語に興味を示したらしい。

 少女はワクワクした様子で愛らしく体を揺らし、煌びやかな着物の袖と桃色の髪がきらめいている。

 だが、女性とスーツの男は少女への物語の公開を賛同しかねていた。

 すると本に埋もれる少年が「元になった絵本なら良いのではないか」と提案してきた。


「…元になった絵本?ルチル、あんたの物語は何かに影響されてできた作品なのか?」


 会議の内容を耳にし、ラムはすぐさま疑問を口にする。右目で会議室の様子を傍観しつつ、ラムの発言に対するルチルの様子を見つめた。

 ルチルは「そう…なのか…?」と若干動揺しつつ首を傾げ、自分は分からないと言いたげな仕草を見せてくる。そんなルチルの横に座る郁は「はあ?」と大きな声を発し、殊更呆れた態度を見せた。


「何よ、それ。ただのパクリってことじゃない」

「え?」

「実体験を基にしたのならまだしも、絵本が元になってるんでしょう?ただの真似事じゃない」

「……た、たしかに。どうしよう」


 郁からの指摘にルチルは瞬時に顔を青ざめさせた。

 郁の指摘通りであれば『見習い勇者・ルチルの物語』は何かの影響をモロに受けた創作小説となってしまう。それは声を大にしては言えないが、あまりよろしいモノではない。


「け、けど。別に、本として残したい物語じゃないかも…?だし?」

「…あんた何言ってんの?」


 苦し紛れな励ましは郁に一括されてしまった。

 しかしルチルはきょとんとした、妙に幼げな顔をさせてラムの方に顔を向ける。


「本として、残さない…?」

「え?あぁ、まぁその、例え?的な…?」

「なんの例えよ、バカ」


 軽い調子で郁に肩を叩かれたが、ペシッという軽い音に反してかなりの痛みであった。ラムはうぐぐ、と身を縮こまらせる。


「た、頼む!その、わたしの物語の元になったというストーリーを教えてほしい!委員の面々にそう頼んでくれ!」

「ちょ、いででっ!」


 先ほどと同じ調子でルチルに前後左右へ揺すられたが郁のダメージの残るラムの身には、女性にしては平均よりやや力の強い程度のルチルのそれに対しても悲鳴を挙げさせる程だった。

 郁の怪力具合は本来の姿が半吸血鬼であるからなのだが、彼女は物語の終末点であるこの街でなら普通の少女にでも戻れていると思っているせいなのは歴然で、いい加減この街でも人間には戻れていないことに気が付いてほしいものである。


「わーったから!聞いてみるから!」


 すっかり弱った口調でそう告げ、ラムはぎゅっと目を瞑る。

 会議室では少年が呆れた態度で着物姿の少女をジト目で見つめているところだった。


「こっち、あんたの嫌いそうな終わり方だから、変な影響受けないデショ」


 何やら不穏な発言をしている。これはルチルと郁に報告すべきか否か、と考えるがそれよりも早くルチルの不安を取り除いてやりたい気持であったラムは「あの、」と彼らの会話に口を挟んだ。


「それ、俺も知りたい」


 四人それぞれの目を見つめ、ラムは切実に訴えた。

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これが僕らのエンドロール あずまなつき @mars

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