第24話


「…で、彼って誰だよ!」


 委員長は肝心なところを述べず、ラムは場所の把握のためにも目を開く。

 ラムが目を瞑っている間に龍の降下をしており、いつの間にやら地上へかなり近付きつつあった。

 龍のスピードが落ちたと同時に目を覆うためゴーグルを下げる。力任せに掴んだせいか前髪が数本抜けてしまったが、その痛みが逆にラムを冷静にさせる。


 この場合、もう一人の“ラム”の言葉を信じるしか他にない。ここで落ちれば即死、レースを完走できれば…きっと、華々しい結末。選ぶならどんな馬鹿が考えたって後者だ。

 そう決め込んだラムは角を掴む腕の力を強める。


「そんな乱暴にしちゃダメよ。トトが痛がるじゃない」


 聞き覚えのある声にラムは目を見開いた。


「えっ、妖精!?」

「あたしの名前は妖精じゃなぁ~い。お助けマンってやつ。感謝しなさいよね」


 風に吹き飛ばされることもなく妖精はラムの肩のあたりに留まる。街に入る前に出会った時と同じで、妖精は突如ラムの前に現れた。


「それっ、追い上げるわよ。振り落とされないように目はかっぴらいてなさい」


 光る杖を一振りさせると龍はスピードをぐんと上げる。

 いつの間に戻っていたのか龍はレースコースを駆け抜け、コースに設けられた順に通るべき輪っかを器用にくぐり抜けていく。前方を飛んでいた翼のある恐竜まで追い付き、追い上げ、追い越す。

 残るは遥か前方を行くドラゴンのみだ。


「ちょい、何でこんな、1位狙ってんの!?」


 風圧でラムの頬が膨らんでしまう。その可笑しな顔に妖精は耐え兼ねたようにプッと吹き出した。


「ゴールくらいは華麗に格好よく決めたいじゃない?」


 至極当然であるように妖精は笑う。

 前方を行くドラゴンとの距離はぐんぐん近付き、今や隣に並んでいる。


「もう忘れてしまっているだろうから言うけど、あんたはこれまで寂しかったはずよ。家族も仲間も友人もいない、いつでもひとりぼっちだった。それから導き出す答えはひとつ、その結末でわたしの主人も救われるはずなの」


 ラムは妖精の発言に目を白黒させる。

 その様子にやれやれと肩をすくめた妖精は手にした杖でラムの額を一度だけ小突く。すると、最初に流れた走馬灯がラムの頭に再び流れ込んだ。

 その記憶には討伐に向かうまでのラムの物語。馬小屋の横でひとり過ごし、気兼ねなく話せる相手もいない。寂しかった。そう、心の底から寂しかったのだ。


「あんたは馬鹿だって噂で聞いたからヒントを上げてるのよ。本っ当にわたしに感謝しなさいよね」


 龍は並んでいたはずのドラゴンと、だんだん差を付けつつある。ラストスパートなのか更にスピードが上がってくるのがラムにも分かった。


「わたしは主人の名前と引き換えに召喚された。わたしの名前は妖精のままだけど主人には名前がない。さ、あとは無い脳みそ絞ってどうにかしなさい」


 “主人の願いの為により良い結末を思い描いて”

 その言葉を残し妖精は姿をくらました。レース終盤、ゴールでもある最後の赤い輪っかを先にくぐり抜けたのは、ラムと龍のペアだった。

 観客席からは大量の紙が舞い上がる。ラムを祝っているのか、賭けが最後の最後に外れてしまったためか、その反応は人それぞれであった。


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