第21話

「これで良かったかな?」


 心の中でそう確認を取るもう一人の“ラム”。

 ウインクのタイミングで彼の瞼の裏でぼんやりと映しだされたのはラムの物語に関する会議で使われている部屋より一回り狭い会議室。彼に問われた相手でもある“そちら”の進行役を勤める、会議室に飛び込んできたあの少女は腕を使い大きく丸を作った。


「部屋を出て結構です」


 その言葉を聞きコクリと頷いた彼は最後に「健闘を祈る」とだけ告げ、ラムの視界から消え失せた。その様子を“ラム”の視点での画面越しに見ていた面々はほっと息をつく。


「本当に面倒ごと起こしちゃって…」


 本に埋まっていた少年のおでこを女性は小突く様に指を当てる。恨めしそうに先程男に殴られた場所をさすりながらも少年は渋々口を開く。


「言いデショ、幸せが一番なんだから」

「テメェな!反省くらいしろよ」


 少年の発言に過剰反応する男。「まぁまぁ!」と言い、彼の怒りを沈めるため進行役の男は大げさな素振りで発言をする。


「心が病んでるとそういう悲しい方面に物語が動きやすい傾向が彼にはありますからね、ね。気分転換の意味でも良かったのではないですか?」


 ラムの物語での進行役は同意を求めようにしきりに周りを見る。

 三角のテーブルに腰掛けていた進行役の少女はふくよかな胸に両手を当て、安堵した素振りを見せる。


「こちらは主人公を変えた新しい続編を問題なく始められそうですぅ。そちらさんはどうなさるのでるか?」

「どうするもこうするも俺らの決定権は主人公に移っちまったしな…」

「言ったデショ、幸せが一番だって」

「はぁ?」


 同じ言葉を繰り返す少年の物言いにスーツの男は再び怒りを募らせる。それに呆れた少年は説明になるだろうと思い、ひとつばかり言葉を付け足す。


「彼の行動次第では皆が笑顔になれる」


 その言葉に隣に立つ女性は「そうか!」と手を打ち笑顔になる。

 いまいちピンと来ていないらしいスーツの男は割れた眼鏡をかけ直し、深呼吸を1度。そして冷静に皆へ告げる。


「しかしこのままではジ・エンドです」

「ほう、何故?良い方向に進めておるではないか」


 まるで遺影でも持っているかのように、心底大事そうに写真立てを持った変幻自在の女は車椅子に座り、眉をひそる。

 彼はボロボロになったメガネを最初と同じようにもったいぶった調子でクイッと指で押し上げる。


「彼は心のどこかで詐欺師の汚名を返上したいようですが、もしも彼が龍に振り落とされた場合、待ち受けるのは死であるからです」


 彼の言葉とほぼ同時に、委員会役員達は猛ダッシュで先ほどの議会室へと引き返した。


16.03.20

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