第4話

 大騒ぎとなっている議会室で唯一、静かにラムの様子を見続けていた変幻自在の女は目をきらきらとさせ、映像が停止されたと同時に興奮しながら口を開いた。


「すっごい!キレイなまち!しんぴ的でもあり、近未来的とも古風とも取れる街並みじゃ。誠に楽しみではないか!」


 画面越しに映る街を初めて目にするのか、女はコロコロと姿を変えながら心底楽しそうな口ぶりで喜んでいる。

 しかし変幻自在の女の横ではスーツの男が怒りで体を震わせ、ダンッと力強くテーブルを叩き立ち上がった。


「委員長!何故、どうして、この主人公は別の世界観に飛び込んで、しかも!よりにもよって!物語が終わってもないのにこの街に入れているのですか!!」

「なんでかねえ」


 大声を上げて講義するスーツの男に委員長のリスは興味深げにヒゲを引っ張るだけできちんと答えようとしない。

 リスのその態度に頭へ血が登ったのか、男は掛けていた眼鏡を力任せに投げ捨て、さらに声を荒らげる。


「あのなぁ!あんたが!主人公のヤローに!決定権を放棄したからだろうが!」

「ひえっ、お、落ち着いて!」


 進行役はわたわたと怒り狂うスーツの男の歩みを止めさせる。


「やーねー。眼鏡外れるとすーぐ怒っちゃうんだから」


 よく見る光景に飽きたのか、ネイルを気にしだした女性が溜め息交じりの呆れ声でそう言った。

 怒りの矛先を向けられた委員長のリスは「ふぉふぉふぉ」と笑うばかり。反省する様子も改善点を見つけようとする様子もない。

 すると、会議室の扉がバンッとこれまた勢い良く開かれ、進行役と同じシルクハットを頭に載せた少女が血相を変えて入って来る。


「た、大変ですぅ!こちらで会議する予定の物語がっ、いま会議中となっている異なる物語と繋がってしまいましたぁ!」

「あ。それ僕だよ」


 飄々と本に囲まれた中から少年が手を上げる。その手には香色の髪をした短髪の勇者と龍のイラストが描かれた絵本が握られている。


「企画段階から思ったんだけど参考にしたこの絵本、結末があんまりにも可哀想デショ。何もしてないのに酷くない?主人公頑張ってたのに。だからちょっと、他のも含めて“いろいろ”と変えようかなって」

「テメェか話をごっちゃにさせたの!」


 ごちん、と力任せにスーツの男は鉄拳を食らわせる。怒りの矛先をリスから少年へとあっさり変えたらしい。

 少年は「ぃたいっ」と反射的に呻き、涙目になって尚も反論する。


「だって、彼女はいつだってハッピーエンドを望んでるじゃないか。これくらい、ちょっとくらい、良いじゃん…」


 そう涙声で彼女に指を差す。

 変幻自在の女は少年に「でかした!」と大声を上げ、愉快そうに手を叩いている。

 皆が皆、溜め息を溢す中、委員長のリスが相変わらず笑ったまま可愛らしくも憎らしい口を開いた。


「まぁ、なるようになるであろう。主人公がこちらに意識を向ければ意思疎通も取れるし、あちらに危機を知らせる時はこちらの声もあちらに届くはずじゃ。ワシらは見物人を決め込もうって事で良いじゃろ」


 それぞれが異なる思いで瞳を揺らがせ、進行役はリモコンの再生ボタンを押す。スクリーンに映る場面は坂を下りきったラムがついに初めて目にしたあの街へと進んでいく場面であった。


16.03.04

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