外伝3


 仲間を切り捨てながら(といってもこのために仲間にしたモンスター達なのじゃセラから予定通りではあるのじゃセラ)、なんとかクエストの目的である花を手に入れたのじゃセラが、竜に襲われたのじゃセラ。




「竜……、竜ですって!?」


 紗羽(さわ)が悲鳴にも似た声を上げる。

 普段暮らしていたら決して出会わない、伝説の生き物に相当するような恐ろしい魔物であるために当然ではある。


「竜と云っても亜竜のようセラね」


「どう違うんですの?」


「竜の因子を持つ生物が魔素の影響で竜化した魔物なのじゃセラ。見た目は似たようなものなのじゃセラが、能力はけた違い。といってもわっちらには脅威に変わりないのじゃセラがね」


 わっちは、昔仲間から得た知識を披露した。

 が、そんなことをしている場合ではないのじゃセラ。

 作戦を立てるのじゃセラ。


「亀さんチーム、襟巻蜥蜴さんチームは一目散に逃げるのじゃセラ!!

 まずは、カバさんチームが足止めを試みるのじゃセラ……。

 現時点を持って、青子を副指令に任命するのじゃセラ」


「はっ! 了解のじゃセラ!!」


 ブルースライムの青子がわっちの言葉に敬礼で応じる。


「全軍の指揮を任せるのじゃセラ!!

 臨機応変に竜を食い止めるのじゃセラよ!!

 一秒でも長く! それが青子の役目なのじゃセラ」


「心得たのじゃセラ!」


「ちょっと、ブルセラ子さん!! 本体はたったの2チームでよいのですか!?

 この先何かあった時のために襟巻蜥蜴さんチーム以外の護衛もつけておいたほうが……」


「二つの意味でそれは却下なのじゃセラ」


 わっちは、紗羽の言葉に首を振る。

 そして静かに説明をした。


「亜竜とはいえ、竜の力は絶大なのじゃセラ。おそらく、全部隊でかかったところでわずかな時間を足止めするのがやっと。運よく気を散らして追撃を諦めさせられたら僥倖なほどの敵戦力なのじゃセラ。

 つまりは、2チームだけ逃げるということにおいてもそれは一か八かの賭け。勝率を高めるために、これより亀さんチームと襟巻蜥蜴さんチームは別行動を取るのじゃセラ」


 そしてわっちは指示を出す。

 ここより右側のルートをわっちら亀さんチームが行く。襟巻蜥蜴さんチームは左へと向かう。

 合流地点は検討不要。どちらかだけが運よく――まさに賭けに勝って――セーフティエリアに出られるだけでわっちらの目的は達成されるのじゃセラから。


「それって、ある意味では本体である亀さんチームもおとりとしての役目を担うということですの?」


「そうのじゃセラ。行くのじゃセラ!!」


 そしてわっちらは走り出す。二分の一のわずかな希望をめざし。

 魔素が薄く、竜が踏み入ることを拒むセーフティエリアへと向けて。




「ブルセラ子さん! 後ろ!! 後ろ!!」


「なんじゃのじゃセラ! 振り返っている余裕はないのじゃセラ!!」


「例の竜が!!」


「貧乏くじはこっちだったみたいのじゃセラね!!」


「どうします」


「どうもこうもないのじゃセラ!! 全力で逃げ……」


 背中に熱い衝撃を感じる。


「ブルセラ子さん!!」


 紗羽の叫ぶ声がする。


 わっちの体は飛ばされるように宙に投げ出され……。


 坂を転がる。


 大丈夫のじゃセラ。まだ体は動くのじゃセラ。

 足も、腕も。


 だが、その皮膚は焼けただれたように赤茶に染まっているのが見てとれた。腕も足も。じんじんと痛む背中はもっとひどいことになっているのだろうか。


 竜の吐くブレス。

 わっちはそれを受けてしまったようなのじゃセラ。致命に至らなかったのが不幸中の幸いのじゃセラが。


 振り返ると、大きくえぐれた大地と、横たわる仲間たちの姿。正確に言えば仲間たちだったモノ。モンスター幼女(に見える18歳以上)の慣れの果て。


「どうやら年貢の納め時のじゃセラね」


 わっちは自嘲気味に呟く。

 竜が追ってきたのはどうやらわっちの部隊だったようなのじゃセラ。

 そして、こっちで動けるのは……、というよりもなんとか命を留めているのはわっちと高高度を飛翔してブレスの射程外にいた紗羽の二人だけ。

 わっちは自分に回復魔法をかけながら、紗羽に最後の命令を下す。


「紗羽! 逃げるのじゃセラ!

 自信はないのじゃセラが、あの竜はわっちが足を止める! 万一に備えて兄者に情報を持ち帰るのじゃセラ」


「あら、司令官たるもの命令を厳守するべきではないのですか?」


「なにを……」


「生き残っているのは、ブルセラ子さんとわたくしのたった二人。

 別行動をとった襟巻蜥蜴さんチームも無事だとは限りません。

 で、あれば。

 わたくしたちの任務はそう、そのお花を無事に届けること。

 セフティエリアまではもうすぐですわ。

 そして今現在花を持つのはわたくしではなく、ブルセラ子さん、あなたです」


「まさかわっちのために、あの竜の相手をするとか言い出すのじゃないのじゃセラね!?」


「そのまさかですわ。それに……」


 竜はゆっくりと、こちらに近づいてくる。


「お気づきですか? この周囲の魔素の薄さ」


 言われて感覚を研ぎ澄ませると確かに紗羽の言うとおり。

 必死で走り、最後にブレスを浴びて吹き飛ばされたことで、いつの間にかセーフティエリアに到達していたようなのじゃセラ。


「ならば、竜も深追いはしてこないはずなのじゃセラ!

 一緒に逃げれば……」


「そう簡単にはいかないでしょう。まだまだやる気のようですから」


 竜はゆっくりと、こちらに近づいてくる。

 いくら魔素が薄いとはいえ、居心地が悪いというだけで活動できぬわけでも、能力が低下するわけでもない。

 魔物と云うのはそういう生き物だ。


「それに、足止めであれば空を飛べないブルセラ子さんよりもわたくしの方が向いております。フェアリーの華麗なる空技、見せてごらんになりましょう」


「しかしのじゃセラ!!」


「早く! 行くのです!! ブルセラ子さん!

 多くの時間は稼げないでしょう。急いで!!」


 言い残すと紗羽は竜へと向かって飛翔する。


 助ける?

 無理なのじゃセラ。わっちは竜と渡り合う力なんて持ち合わせていないのじゃセラ。


 説得する?

 そんな時間があるわけないのじゃセラ。


 コンマ数秒で判断したわっちは、竜に背を向け走りだした。




 どうして涙が出るんだろう。

 所詮は捨石。ただ使い捨てられるために集められたモンスター。

 今までわっちのために命を投げ出した来たモンスター幼女たちも、紗羽も、そしたわっち自身も。


――紗羽……


 わっちに出来るただ一つのことは、生きて、この花を兄者に届け、そして仲間たちの生き様を伝えることだけなのじゃセラ。


 わっちはひたすら走った。決して後ろを振り返らず。耳に届く音すらも遮断して……。

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ゲーム世界にトリップしたからモンスターハーレム作りますっ! 東利音(たまにエタらない ☆彡 @grankoyan

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