リアル幼女のお使い編

第1話 幼女オーダー

 リアル幼女出現




「はじめましてぇ、あたしネルルですぅ」


 改めて、幼女(本物)が自らの名を名乗る。


 ウェイトレスという役職もあってかシックな黒っぽいシンプルワンピースの幼女である。

 同じ幼女でも、ブラウスに赤い吊りスカートのグリスラ子(気に入ったのかいつも着ているし実は洗い替えも作っていたようである)とは対照的である。


「はぁはぁ、えっと……ネルルちゃんは、お兄ちゃんにどんな用があるのかな?

 なんだったら、ちょっと二人っきりで話そうか?

 お父さんとお母さんには内緒だよ」


 などと話しかけようものならいろいろ失うので、


「仕事は大丈夫なのか? こっちは別に食事をしながら聞いてもいいんだが」


 とわりとあっさりとした対応を心掛けた。

 これでいろいろ失うことはないはずだ。


「お話聞いてくれるんならぁ、食事が終わった後に少し時間ちょうだい?

 デザートサービスするからぁ」


「そんな気を使わなくていいぷるよ」


「デザートも食べたいにゃん」


「あらあら、お兄様。どういたします」


「そうだな。折角の申し出だし。いい機会だし。

 デザートを注文するのは決定として。

 サービスにしてもらうかどうかは、話を聞いてから……ということでどうだ?」


「もうお客さんも来ないだろうしぃ。

 どうせ余っちゃうからぁ、それこそ気を使わなくていいよぉ」


 ということで、まだまだ接客でほどほど忙しいネルルの話は後で聞くことにして食事をとることにした。


「ほう……。川魚だと聞いてたからもっと貧相なのを想像してたんだが……」


「結構なボリュームですわね……」


「これくらいペロリにゃ!」


「途中でお腹いっぱいになっちゃったらタマちゃん食べてくれるぷる?」


「お安い御用にゃん!」


 と、食事が始まる。




 食事が終わったタイミングで。


「コーヒーと紅茶どっちがいぃ?」


 とネルルがやってくる。

 都合よくというか、ネルルの読み通りというか、店内に残っているのは俺達だけになっていた。


「今日はこんなもんしか残ってなくって申し訳ないんですが……」


 と、トレイを持って現れたのはコックというには男臭い髭もじゃの大男である。

 もちろん初対面であり、見覚えはない。ゲームでも出てこなかったキャラだ。


「お父さんなのぉ」


「はじめまして、なにやらネルルが声をかけてしまったようで」


「いや、大丈夫だ。

 それに話を聞くだけだからな。

 失礼だが、ここの主人か?」


「ええ、オーナーシェフといえば聞こえはいいですが、単なる食堂の親父ですわ。

 ネルルの父親のフラベと申します」


「そのネルルちゃんのお話って、お父さん……フラベさんも関係ある話ぷるか?」


「いえ、俺には内緒だって話らしくって。

 ただ挨拶もせずには失礼だろうと顔だけださせてもらいました。

 まあ、小さな子供の言うことですから、聞くだけ聞いてやって、無理なら無理ときっぱり断ってやってもかまわないんで」


「まあ、聞いてからの話だな」


「それじゃあ、俺はこれで。店の後片付けをしてきますんで。

 どうぞごゆっくり」


「パイにゃ! フルーツ沢山で美味しそうにゃ!」


「あんなむさくるしいおじさんが作ったとは思えない華やかな出来栄えですわね」


「味も美味しいにゃ」


「じゃあわたしも食べようぷるかな」


「ああ、食べながら聞くことにしようか。

 ネルルの分が無いが……、良かったら俺のを食べるか?」


「大丈夫ぅ。食べたくなったらまだ余ってるからぁ」


「そうか。じゃあさっそく話を聞こうか」


「あのねぇ。

 お父さんの誕生日が近いからお花が欲しいのぉ。

 でも、お花屋さんでは売ってないのぉ」


「どこに行けばあるんだ?」


「わかんない」


「どこで見た花ぷるか?」


「昔お母さんが好きだったお花で、お父さんの誕生日にはいっつもプレゼントしてたお花なのぉ」


「こんなこと聞いちゃまずいのかも知れないけど、お母さんは?」


 とフェアリ子が尋ねる。俺も気にはなったがなんとなく聞いちゃまずい感があって控えていたのを、こいつは気にせずぶっこんでくる。短所でもあり長所でもあるな。


「お母さんはぁ、冒険者やってたんだけど、モンスターにやられちゃったのぉ」


「死んだ……ということですわね」


 ストレートすぎるな、フェアリ子は。


「うん」


 まあ、ネルルがそれほど引きずっていないのが幸いだ。


「それでネルルちゃんがお店のお手伝いをしているぷるね。関心ぷる」


「どうせお母さんは、こういうの向いてないって手伝わなかったから小さい頃からあたしがやってるのぉ」


 幼女が言う小さい頃とは一体何歳なのであろう。

 とにかく話が見えてきた。


「その花を探してくれということなんだな?」


「うん。明日お店もお休みだし、一緒に行ってくれたらなぁって。

 それにそのお姉ちゃんお花に詳しそうだったし」


 とネルルが視線を投げかけたのはフェアリ子である。


「まあ、そうですわね。わたくしはいろんな植物の事情には長けておりますわ」


「蝶々みたいだったしぃ」


「んま! 失礼な! 蝶ではございませんわ。

 妖精ですのよ」


「でも花の蜜とか好きなんだろ?」


「それとこれとは話が別ですわ!」


 フェアリ子は気を悪くしたのか、視線を外してパイかぶりついた。

 といってもフェアリ子の体長ぐらいもある大きなパイだ。

 フェアリ子が幾ら齧っても中身のフルーツに到達できない。


「あっ、ごめんぷる。切り分けてあげるぷる」


 と、グリスラ子が優しさを見せたりなんだったりしながら。

 フェアリ子が残すであろうパイをタマが虎視眈々と狙っていたりしながら。




 結局、父親の了解も取って――じゃないと幼女を勝手に連れまわしたら事案発生である――翌日はネルルも連れて街の外を散策することになった。


 元々あちこちうろうろしながらモンスターを探すというのが予定であり、それに花さがしが加わるだけの話である。

 見つかればいいし、見つからなかったら無理はせずに諦めるという合意はとりつつ。


 明日の待ち合わせの約束をして、俺達は店を出た。




 宿に向かいながら考える。

 やはり……。この世界はゲームとは違う。

 生身の人間が生活しているのである。

 それにゲームでは触れられなかった、冒険者という概念。聞けば冒険者ギルドなども普通にあるという。もちろんそれはゲームでは存在しなかった。


 ゲームの主人公は勇者という特別な存在であり、仲間もモンスターに限られていた。

 だから、一般人的な相手と話す時は、


「ヘムレムの街へようこそ!」みたいな定型文を話す奴か、旅の手掛かりをくれる係。

 あるいは、いろいろ依頼をしてくるサラサさんみたいなタイプのNPCだけだったのだが……。


 あの洞窟での一件以来。世界が広がりを見せている。

 そうは言っても、戦闘などはゲーム的縛りを体現している歪な世界だ。


 リアルとシステムの狭間に生きる俺は……。この世界とどう向き合って行くのか、考え続けなければならないのかもしれない。

 

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